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「(核攻撃を含む)無慈悲な作戦が最終的に承認」。今月4日、朝鮮人民軍の発表した談話が報じられると、その極めて激しい挑発的内容にもかかわらず、ツイッターや各種掲示板の反応は意外に冷静だった。「また、無慈悲シリーズか」−。
この反応は、北朝鮮の対外宣伝で「無慈悲な」という修飾語が多用されるところから来ている。最近の報道を拾っただけでも、「米の核による脅迫には無慈悲な核攻撃で応える」(3月29日、朝鮮中央通信)、「(韓国に対し)無慈悲の報復行動」(3月13日、同)、「(米国の対北金融制裁に対し)無慈悲な懲罰と第2、第3の連続的措置で対応」(2月14日、労働新聞)などなど。
北朝鮮の脅し文句のインフレは今に始まった話ではない。2010年8月に行われた米韓合同軍事演習に対しては「無慈悲な対応の鉄槌(てっつい)を下す」「この世の誰も体験したことのない最も厳しい懲罰」「先軍の銃でことごとく一掃」「本当の戦争の味を見せる」など、語彙の限りを尽くして連日威嚇。言葉だけを見れば、3年後の現在と入れ替えてもまったく違和感はないだろう。
だが、この脅迫の羅列は、必ずしも北朝鮮の意図通りの効果を生んではいないようだ。例えば「北朝鮮 無慈悲」でグーグル検索すると、北の挑発文言を面白おかしくまとめたサイトが多数ヒットする。北朝鮮独特のレトリックは、ネタに貪欲な日本のネット住民によって、珍妙な素材として消費されているのだ。
ある無名のネット掲示板住民は、このレトリックの過剰ぶりが、何かに似ていると指摘した。そう、フランスの新酒ワイン、ボージョレ・ヌーボーに毎年付けられるキャッチコピーだ。
「100年に1度の出来」(2003年)、「50年に1度の出来」(09年)、「1950年以降最高の出来といわれた09年と同等の出来」(10年)、「近年の当たり年である09年に匹敵する出来」(11年)…。うたい文句だけ見ると、何年のボージョレが一番うまいのかさっぱり分からないという、ネットでは有名な笑い話に引っかけて、「50年に1度の無慈悲」「昨年同様より恐ろしい懲罰」と北の脅し文句が改変されるなど、格好のパロディーのネタとなっている。
もちろん、「オオカミ少年」の寓話(ぐうわ)のように、北朝鮮が軍事挑発のあげく本当に開戦に踏み切る可能性はゼロではない。有事への備えが必要なのは論をまたないし、挑発文言の内容や発信主体を分析し続ければ、北の政治状況の微妙な変化や対外的なシグナルが読み取れる。面白がるだけでは不足というべきだろう。
だが、北朝鮮の挑発の目的が威嚇にある以上、その一つ一つにいちいち過剰反応するのも健全とは言えない。北朝鮮が繰り広げる化石のような全体主義プロパガンダは、現代日本ではもはやギャグにしかなりえない。日本人拉致事件などの暴挙は忘れてはならないが、チャプリンの「独裁者」が示すように、笑いや風刺は独裁社会に対する有効な武器になる。北のプロパガンダが、もっぱら笑われている現状は、日本のネット社会のある種の「健全さ」を教えてくれる。
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【用語解説】最近の北朝鮮情勢
北朝鮮は3月5日、朝鮮戦争の休戦協定を白紙化する意向を突然表明し、30日には韓国に対し「戦時状況」とする特別声明を発表。さらに、4月9日には「情勢は核戦争前夜」として在韓外国人に退避を勧告するなど、執拗(しつよう)に挑発の段階を上げ続けている。これに対し、日韓など周辺諸国と米国は、ミサイルの迎撃態勢を整えるなど警戒と監視を強めている。
何か分からんけど
イライラしてきた
塩分取りすぎたかな
間違いなく生理です
お薬出しておきますね
次の方どうぞ