財務省と内閣府が、デフレ深刻化の主因は1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたこと、すなわち「増税」ではなかったと分析した資料を、8月22日の公明党の会議で配ったことが報じられた。
消費税増税ではなく、何がデフレ深刻化の主因なのかといえば、例により「アジア通貨危機」と「国内の金融危機」だという。
とんでもない話だ。何しろ、'97年の我が国の需要の縮小は、同年4月から始まっている。それに対し、タイのバーツ危機が発生したのは'97年7月、山一證券が破綻したのが'97年11月だ。
具体的に、「いつ」から我が国の民間需要の縮小が始まったかを見てみよう。民間の需要といえば、具体的には民間最終消費支出(いわゆる個人消費)、民間住宅投資、民間企業設備投資の3つになる。
我が国の民間需要がピークを打ったのは、1997年の第一四半期(1月〜3月期)だ。翌第二四半期の最初の月、すなわち'97年の4月に消費税が増税された。結果的に、せっかく民間需要が立ち直りかけていた状況に、見事に水を差された形になった。
その後、四半期ベースで見た我が国の民間需要が'97年第一四半期を上回ったことは、一度もない。信じられないだろうが、'97年第二四半期以降、15年もの長きに渡り、我が国は民間需要が'97年第一四半期を超えたことがないのだ。
しかも、前記は「名目」で見た金額である。実質的な生産(実質GDP)が増え続けても、物価が下落してしまうと、名目の需要金額は下がる。
'97年4月以降、我が国は物価の下落が需要を縮小させ、需要の収縮が国民の所得水準を引き下げ、さらなる物価下落を呼び込む悪循環に入ったことがわかる。すなわち、デフレーションである。
需要の反対側、つまり「生産」の方を見てみると、'97年の上半期、消費税増税直後から企業在庫が急増し、さらに生産・出荷指数が下落していった。企業の生産側も、縮小のきっかけは消費税増税であり、アジア通貨危機でも金融危機でもないのだ。
そもそも、増税とはすべてがそうなのだが、需要縮小策である。税金とは、所得(企業の利益、家計の所得など)から支払われる。増税され、可処分所得を減らされた国民は、必ず支出(消費、投資)を減らす。「増税され、可処分所得が減った。それでは、支出を増やそう」などと考える国民は、一人もいないだろう。増税により国民の支出が減れば、当然の話として需要も減る。何しろ、需要とは「財(製品)やサービスに対し、支出された金額」という定義になるのである。
無論、'97年後半のアジア通貨危機や金融危機勃発も、我が国の需要縮小に拍車をかけただろう。とはいえ、しつこいだろうが始まりは「消費税増税」なのだ。
政府が来年4月の増税を決断し、国民の支出(=民間の需要)が「へたった」ところに新興経済諸国の危機や、中国のシャドーバンキングの危機が勃発し、我が国がさらなる需要縮小に突っ込んでしまったとき、財務省はまたもや、
「外国の要因でデフレが深刻化したのだ。消費税増税のせいではない」
と、言い訳をするのだろうが、それは単なる責任逃れに過ぎない。
アベノミクスが順調に進み、消費税増税が先送りされれば、我が国は外国の状況がどうであろうとも、普通に国民経済を成長路線に戻せる。
実際、アジア通貨危機だの何だのいっているが、'96年から'98年にかけた日本の財の輸出は、43.5兆円('96年)、49.5兆円('97年)、48.9兆円('98年)という推移になっている。
'97年から翌年にかけ、たかだか6000億円の輸出が減ったくらいで、我が国は「失われた15年」に突入したのだろうか。そんなはずがない。
しかも、現在の日本は'97年よりも状況が悪化している。デフレ深刻化で法人企業のうち7割超が赤字状態なのだ。すなわち、法人税を支払っていない。
さらに、デフレにより価格競争は激化し、国内企業はこぞって「値下げ」「低価格」を売りにビジネスを展開している有様だ。
この状況で消費税を5%から8%に上げたとして、企業側が普通に商品価格を上げられるとでも思っているのだろうか。業界全体で一斉に値上げをしてくれればともかく、現実には必ず「裏切り者」が出る。
そんなことは企業側もわかっているため、結局は増税分を企業(バリューチェーンのどこかの企業)がのむ形になり、赤字企業がこれまで以上に増え、法人税減少が消費増税分を打ち消してしまうだろう。
消費税が増えた以上に法人税、所得税が減り、政府の税収全体が結局は減少になってしまう。そのとき、財務省は何と言い訳するつもりだろうか。
恐らく、言い訳ひとつせず、税収減と赤字国債発行増大を理由に、
「財政が悪化した。さらなる増税が必要だ」
と、やってくるに決まっている。
財務省の口車に乗せられ、政府が再び増税を実施すると、国民の支出という需要が減り、所得も縮小し、税収はさらに小さくなってしまう。すると、財務省は再び…。と、国民経済を困窮化させる悪循環が無限に続いていくことになる。まさに、増税無限地獄だ。
政府の目的が国民を豊かにする「経世済民」である以上、デフレという「民間需要」が縮小している時期の消費税増税は絶対に実施してはならない愚策なのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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