ウナギの次はマグロが消える
江戸時代中期に活躍した蘭学者・平賀源内。知り合いのウナギ屋を繁盛させるため「土用丑の日」のキャッチコピーを考案して以降、夏の風物詩になったとされるウナギ。一説によると世界で消費されるウナギの7割を日本人が消費すると言われており、日本人の「ウナギ愛」は相当なものだ。だがその一方的な愛は乱獲・乱食へと繋がり、事態は深刻なものとなっている。
1キロ250万円超
銀より高いウナギ稚魚
資源が減り続けるウナギ。鰻屋の閉店も相次ぐ
(写真:ロイター/アフロ)
1960年代には200トンを超えていたシラスウナギ(ウナギの稚魚)の国内漁獲量だが、今年の養殖用稚魚は輸入物も含めて約12トン(水産庁発表)へと激減した。同じくシラスウナギの不漁が騒がれた昨年より25%下回り、養殖業者のシラスウナギ仕入れ値は1キロあたり250万円を超す。銀価格以上金価格未満といった水準である。
少し遅い感もあるが、今年2月に環境省はニホンウナギを絶滅危惧IB類EN(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に指定した。国際自然保護連合(IUCN)も、ニホンウナギを国際的な絶滅危惧種としてレッドリストに載せることを検討している。
『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)の著者で、水産会社の海外買付を担当する片野歩氏は「残念ながらニホンウナギの資源回復はもはや手遅れ」と話す。
日本人の「魔の手」は
遥かマダガスカルまで
60年代をピークに漁獲量が減り続けたニホンウナギの稚魚。減少を受けて日本の商社が90年代に目を付けたのは、ニホンウナギとは種類が異なるヨーロッパウナギの稚魚であった。中国での養殖を経て、日本へ輸入するルートが確立され、日本人は安くウナギを口にすることが可能となった。
だがこれも長続きしない。2007年ワシントン条約の締約国会議で参加各国は減少著しいヨーロッパウナギを条約の規制対象にした。他にも要因はあるが、日本人の「ウナギ愛」がヨーロッパウナギをこうした状況へ追い込んだのだ。
そして、現在、日本人の「魔の手」はマダガスカル、フィリピン、インドネシアなどにも及ぶ。希少価値の高くなってきたウナギを求め、遥か外国にまで買い付けに行っていることを礼賛する旨の報道も目立つが、こうした行動はいずれ現地の資源を枯渇させることに繋がる。焼き畑農業ならぬ、焼き畑「漁業」に持続性はない。
未成魚も卵も一網打尽
境港のクロマグロ漁
今年6月、境港に水揚げされたクロマグロ。20〜30キロのものが多く、中にはこの写真のように10キロ台のものもある
「昔の太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)は100〜150キロのものばかりだったけど、今は20〜30キロ台のものばかり」築地市場で30年以上マグロの仲卸業を営む生田與克さんはそう嘆く。クロマグロは「本マグロ」として知られるマグロの最高級魚種だ。
今年、ISC(北太平洋のまぐろ類等に関する国際科学委員会)は、「クロマグロの資源は過去最低水準」と発表。海外の環境団体は「絶滅寸前の危機」と指摘した。水産庁の資料によると、01〜10年に獲られたクロマグロの95%以上が未成魚だ。
「境港のやり方はクロマグロを絶滅に追い込む可能性があります」
境港市の漁業関係者である鶴田達郎さん(仮名)はそう話す。クロマグロは境港沖合の日本海海域と南西諸島海域の2カ所で産卵するが、そこで「青森県の大間1年分のマグロを巻き網により1日で獲っている」(三重大学・勝川俊雄准教授)のだ。
境港はイワシやサバの漁をしていたが、乱獲により魚が減少したため、04年から沖合に産卵海域のあるクロマグロを新たな獲物にした。高性能のソナーを使い、巻き網でクロマグロを根こそぎ獲る。大間などで行われている一本釣りと異なり、巻き網は文字通り魚を一網打尽にする。
クロマグロが孕んでいた卵。こうした卵は主に魚粉(エサ)に利用される
「今年6月に境港で水揚げされたマグロは20〜30キロのものが過半を占めていました。未成魚や卵を抱えているものも多く、胸が痛みます」鶴田さんは水揚げデータを見ながらそう話す。境港のクロマグロ漁は未成魚と産卵親魚の乱獲という資源管理上好ましくない漁業を行っているのだ。環境団体として名を馳せるグリーンピースも「境港には特に注意している」(花岡和佳男・海洋生態系担当)と目を光らす。
もともとイワシやサバを獲っていた巻き網の運搬船に冷凍設備はなく、一本釣りのように素早く船上で処理することもできない。血抜き処理をしていないため劣化が早い。こうしたクロマグロが大量に築地へ出荷されるが値がつかないことも多い。結局買い叩かれて「生マグロ」として安くスーパーなどの店頭に並ぶのである。
「クロマグロがなくなる」と言われてピンとこない背景には、メバチマグロやキハダマグロなど、クロマグロ以外の魚種が多く出回っている他にこうした事情があるが、このモデルに持続性がないのは明らかである。
境港で水揚げされたクロマグロに貼られているステッカー
2ページ目の写真は境港で水揚げされたクロマグロだが、魚体には黄色いステッカーが貼ってある。拡大したのが右の写真だ。右側に「産地として、本マグロの資源管理に取り組んでいます」と記載があり、鶴田さんは「いい加減にしてもらいたい」と怒りを露わにする。
現在、境港の漁獲枠(30キロ以上のクロマグロ)は年間2000トン。昨年600トンの水揚げであったことを勘案すると、漁獲枠は意味をなしていない。境港の属する山陰旋網漁業協同組合は「漁獲枠は最盛期よりは少ないので管理していると言える。巻き網を『根こそぎ獲る』と捉えるか、『効率良い』と捉えるかは立場の違い」と話す。
境港の例は氷山の一角である。「日本は世界最高クラスの漁場があるのになぜこんな惨状なのか」(マグロ輸入業を営むビル・コートさん)と外国人も首を傾げる日本の漁業。資源管理の本格化が急がれる。
漁業掲示板でしたか
失礼しました
ぎょぎょ