福島の真実 ──『美味しんぼ』作者・雁屋哲氏に聞く
──福島の原発事故についてはすぐに情報をキャッチできましたか。
雁屋「契約しているNHKのテレビやインターネット、友人からの情報などで知ることができました。4月には日本に帰りましたが混乱の真っ最中で、震災から2カ月半経ってやっと被災地に取材に行くことができました。昔『美味しんぼ』で取材に行った人たちはどうしているのだろう、どういう生活をしているのだろうと心配で、まずは宮城県と青森県に行きました。その後、11年の11月から13年の5月まで本格的に各地を取材して回りましたね。多くのジャーナリストが関連記事を書く中、僕はあくまでも二番手ですから
実際に福島県に行って、自分の目で 見て体験しなければという思いでした」
──実際に行かれてみると被害は想像をはるかに上回ったと。
雁屋「ぜんぜん違いましたね。中でも一番は、やはり放射能の被害です。目に見えないですし、
ただちに被害は出ない。でも見えないというのがとんでもなく怖い。これは私自身の体験ですが、
取材から帰って夕食を食べている時に突然鼻血が出て止まらなくなったんです。なんだこれは、と。
今までの人生で鼻血なんて出すことはほとんどなかったので驚きました。その後も夜になると
鼻血が出るということが何日か続きました。ですが、病院に行っても『鼻血と放射線は今の医学
では結びつけることはできない』と言われ、鼻の粘膜の毛細血管をレーザーで切ることになりました。
また、取材後にすごく疲労感を感じるようになった。取材に同行したスタッフも双葉町の村長も、
鼻血と倦怠感に悩まされていましたよ。低線量だから被害はないと言いますが本当でしょうかね。
http://nichigopress.jp/interview/51415/子どもたちは学校でも塾でも、ぼーっとして何もできない、スポーツもしたくない、動きたくない
と言っていました。残酷な言い方になるけど、あの周辺は人は住んではいけない所になってしまった。
でも、僕たちが住んでいる人に出ろとは言えない。『福島の食べ物を食べて応援しよう』という
キャンペーンもありますが、これもどうかと思います。仮に市場に出回る食品自体は大丈夫だとしても、
土の汚染はすごいですから。農作業中は、土が肌に触れたり、器官から吸い込んでしまったりもします。
そういう意味では農作業に携わる人の被ばく量はものすごいものになります。ただ、11年に各地で
高い線量が検出されたり、翌年には米の作付が禁止されたりしましたが、僕は福島で一番問題なのは
漁業だと思いますね。これから先、何十年経っても漁業復活は無理なのではないかと思います」
──東北地方の海産物の多くを今後食べられなくなる可能性も。
雁屋「恐らく食べられなくなるでしょうね。どうしようもない、とんでもない被害ですよ。山の幸も川の魚も…」
http://nichigopress.jp/interview/51415/