【増大する備蓄量】
しかし、これらの核物質は、日本の保有量のごく一部に過ぎないと報じられている。日本は現在、原発の使用済み核燃料を再処理することでこれらの核物質を得ており、秋には毎年何トンをも生産できる新施設(青森県・六ヶ所再処理工場)も完成する。
福島第一原発事故以来、国内の原発は停止しており、備蓄は増大し続けている。中国は、核兵器転用を意図していると非難し、平和目的の核開発を主張するイランも、イランを制裁して日本を放置するのはダブルスタンダードだと主張する。
【銀行よりセキュリティの甘い核物質の管理】
各国の核物質貯蔵施設には、保安管理の貧弱なところもあると指摘されている。日本についても、ニューヨーク・タイムズ紙は、1990年代初めに茨城県東海村の貯蔵施設を同紙記者が訪問した際、「非武装の警備員や、大抵の銀行ほどの保安措置もない現場を目撃した」と指摘している。
ガーディアン紙も、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥・事務局長が昨年、核物質の窃盗が毎年平均100件報告されていると述べたことに触れている。
オバマ大統領はこうした状況を憂慮し、核物質の廃棄またはアメリカへの引き渡しを求めてきたとされる。したがって各紙は、日本が備蓄のごく一部でも明け渡したという象徴的意義以外に、それらの物質がアメリカに送られ、もっとマシな管理体制下に置かれるという実際的意義もある、との評価だ。
【前途多難な核削減努力】
とはいえ、オバマ大統領にとって、前途多難な状況だ。まず各紙とも、日本は非核主義を堅持し、兵器転用意図があるとの中国の非難も断固否定しているのに、石破自民党幹事長ら右翼政治家は、まさにこうした核物質の軍事的抑止力を買っている、と指摘する。
核安全保障サミットは2010年以来隔年開催され、今回で3回目になる。ガーディアン紙は、本来2013年までにこうした核備蓄廃棄は完了予定だったと指摘する。なお、過去すでに合意が成立していたのはウクライナなど10ヶ国、今回のサミット参加国は53ヶ国である。締め切りは2016年の次回サミット開催予告とともに延長された、と同紙は報じている。
ニューヨーク・タイムズ紙は、もしウクライナがいまだにソ連時代の核兵器や核物質を保有していたら、現在のウクライナ危機はさらに危険なものになっていたと指摘する。一方、まさにそのウクライナ危機をはじめ、最近の米露関係悪化による核軍縮の頓挫を懸念する。それどころか当の米議会自体、過去に包括的核実験禁止条約を否決するなど、必ずしも核軍縮・不拡散に前向きではないのだ。
日本、6ヶ月で核兵器製造可能?プルトニウムは抑止力として機能と海外メディア報道
原子力は平和利用のためとし、核不拡散条約にも調印している日本。今年1月に、日本が冷戦時代に米国から提供された兵器転用可能なプルトニウムを所有していると報じられた後、中国が激しく反発し始めた。
【中国は不信感を表明】
米国PBSは、中国が反対しても、兵器転用可能なプルトニウムを日本が保有することを懸念する理由はない、という米国の見解を報じている。米国のマクマナス国際原子力機関(IAEA)大使も、日本が核兵器を作る、最終的に核物質返還を拒むという兆候はないと述べたという。
一方、中国国営新華社通信によれば、17日、李中国外交部副部長が、過剰な核物質保有についての説明を日本に求めたという。
李氏は、「日本は核物質をどうするつもりなのか。なぜ兵器転用可能な物質が必要なのか」と問い、侵略の歴史を否定し平和憲法の見直しを右翼が主張するような日本の動きを批判し、国際社会の不安を取り除くべく、平和の道を歩むための実態ある行動を求めると述べた。
【6ヶ月で核兵器製造が可能?】
米国NBCは、日本の保有する核物質を「地下室の爆弾」と呼び、中国の懸念の理由を説明している。
日本の関係者によれば、実は1980年代より、日本は核兵器を製造するだけの技術を持っているという。現在9トンのプルトニウムが日本各地で保管されており、35トンがフランスとイギリスで保管されている。これだけで、約5,000発の核爆弾が製造可能であり、さらに1.2トンの濃縮ウランも日本は保有している。米国の高官によれば、日本のような高度な原子力技術を持つ国なら、政治的決定が下されれば最短6ヶ月で核兵器の製造が可能だという。
【日本にとってはすでに核抑止力?】
ディプロマット誌は、中国に対しては「地下室の爆弾」戦略は、日本の国益にかなうとし、日本の核兵器製造という懸念を中国に持たせることで、日本は双方の緊張悪化を遅らせることを望んでいると分析している。
一方、NBCは、南カリフォルニア大国際関係学部のハイマン教授の意見を紹介し、日本が核兵器を実際に作るのは困難と報じている。ハイマン教授は、核兵器製造に反対し、計画をばらす者を「拒否権プレーヤー」と呼び、日本の官僚体制においても多くの「拒否権プレーヤー」が存在すると指摘。最終的には彼らの圧力で計画は頓挫するだろう、と述べている。
しかしNBCは、現時点で、日本は核兵器を作ることなく、国際社会の制裁も受けず、一定の核抑止力を達成したと指摘し、実際に爆弾を作るよりも、偉大な業績を成し遂げたのかもしれないと締めくくっている。
日本の核武装を恐れる?中国、プルトニウム所持を批判
米国が日本に対し、プルトニウム約300kgの返還を求めていると、共同通信が1月末に報じた。
これに対し中国外務省の華春瑩副報道局長は17日、「日本国内に兵器転用可能な核物質が大量に存在することは、核不拡散に対するリスクだ」と、強い懸念を示した。日本は核不拡散条約(NPT)に加入した国家として国際的義務を厳密に守るべきと述べ、早期に返還するよう求めた。
なお文部科学省は、3月にオランダで開催される第3回核安全保障サミットで返還を公式に合意する見通しを示したという。
【これまでの経緯】
アメリカは1960年代に、茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用のプルトリウム約300kgを日本に提供。日本が保有する兵器級の高濃度プルトニウムは、イギリス産も含むと331kgにのぼり、核兵器40〜50発分に相当する。この他、日本はさらに約44tのプルトニウムを保有している。
オバマ政権は「核テロ阻止」の観点から、兵器転用可能な核物質の削減を提唱。2010年に開催された第1回核安全保障サミット以来、日本にプルトニウムの返還を求めてきた。
しかし日本側は「高速炉の研究に必要」として、これまで返還を見送ってきた経緯がある。
ただ、元読売新聞ワシントン特派員の高濱賛氏は、「テロ防止というのは建前で、日本から「核武装」という外交カードの可能性を奪っておきたいというのがアメリカの本音だ」と予測する(週プレNEWS)。それだけ慰安婦問題、靖国参拝、憲法改正など、安倍政権の「右傾化」に対する視線が厳しくなっているとみている。
【核保有国・中国は、日本の「再武装」を警戒】
東シナ海の領土問題や安倍首相の靖国参拝などで日中関係が悪化する中、新たな論争が起きたとロイターは報じた。また、核を保有する中国は、非核国・日本の「再武装」を警戒していると指摘した。
週プレNEWSは、「要は、中国がアジアにおける軍事的優位性を保っていくために、日本が軍事転用可能なプルトニウムを持っていることは非常に都合が悪い」という、日中関係に詳しいジャーナリストの近藤大介氏の見解を掲載した。
アメリカが日本にプルトニウム返還を求めたわけ
日本政府は24日、研究用として所有している核物質を、アメリカに引き渡すことで合意した。
件の核物質とは、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構内「高速炉臨界実験装置(FCA)」にある高濃縮ウランおよび分離プルトニウムのことで、1960〜70年代にアメリカおよびイギリスから購入した。
【アメリカのテロ対策に協力】
朝日新聞は、この引き渡しの理由を「アメリカのテロ対策方針」に協力するため、と報じている。
朝日新聞がCPI(センター・フォー・パブリック・インテグリティー/米の非営利報道団体)との共同取材から得た情報によると、東海村にある核物質に対するアメリカ政府の懸念が日本政府へ伝えられていたとのことである。
その懸念とは「施設における警備の緩さ」であるという。問題の物質が高濃縮であるがゆえ、そのサイズはコンパクトで持ち運びやすい。かつ放射線量もさほど高くなく、つまりはテロリストにとって実に好都合ということだ。にもかかわらず当該施設の警備は「アメリカでは考えられないレベルで緩い」というのがアメリカ側の見解で、そのことが米政府にとって問題であった、と同紙は伝える。
【非核化がオバマ政権要のひとつ】
ニューヨーク・タイムズ紙は今回の合意を、「オバマ政権にとっては最大の成功のひとつ」と表現している。
オバマ大統領は、2009年チェコの首都プラハにて、核廃絶を訴える演説をした。以来、世界の非核化はオバマ政権にとって要のひとつとなった、と同紙は伝える。しかしそんな中、ロシアとの関係は悪化、北朝鮮は核開発を再開、インドとパキスタンも武器開発の近代化を進めており、事態は一向に好転しないという。
そうなると、もはや「核物質」の安全管理が政策の柱とならざるを得ない、と同紙は指摘する。2012年の核保安サミットでオバマ大統領は「分離プルトニウムのような危険な物質をこれ以上増やさないこと、かつ既存のものについてはテロリストの手から守ることが必用」と訴えている。
今回の日本による核物質返還は、そのようなオバマ大統領の訴えが初めて形になったようなもの、と同紙は伝える。さらに同紙は、この合意の共同発表が、非核化に向け日本と共に世界を先導するよいきっかけとなるだろう、との見方を示している。
【背後には中国の懸念も?】
ブルームバーグは、日本の核物質保有に対する中国の懸念について報じている。
同誌によると、中国外相の報道官は、日本が所有する核物質について「通常必要と思われる量を遥かに超えている」と発言しているとのことである。つまり中国は「日本が核物質を兵器に転用する」ことに怖れを抱いているらしく、青森県六ヶ所村で試験運転中の核燃料再処理工場についても脅威に感じているという。
「日本は、核物質を兵器に転用するつもりは全くないにも関わらず、その高い技術力から”その気になればいつでもやれる”と思われてしまう。そのことが各国へ誤解を与えている」と元ホワイトハウス科学技術政策局次長のスティーブ・フェッター氏は指摘する。さらに同氏は、折しも領土問題等で日中関係が悪化している事情を考えれば、日本が「エネルギー使用とは別の目的」を持っていると中国が勘繰っても仕方がないだろう、との分析を示している。