これまで海外投資家は日本株を買うのにあわせて円を売った。片方で損してももう片方で儲かる危機回避の策だが「とうとう米国で年末年始に円の買い越しが始まった。これはもう『日本株は買わない』というメッセージに等しい」(斎藤氏)というのだ。
7月に参院選も控える安倍政権はどう出るか。噂されるのは、3回目の「黒田バズーカ」で株高を演出し、選挙に突入するシナリオだ。2回目を撃った14年秋からは市中の国債を買い入れ、年80兆円規模のお金を流すが、これさえもかなり胡散臭いのだ。
「日銀内部は今、だいぶ混乱しています。上層部は『国債を買い増せ』と発破をかけ、現場は『もうありません』と応じているようです。上司もそう言わざるを得ないのでしょう。売るにも買うにも国債はもう日銀の蔵の中にあり、市中に残っているモノが少ない」(元スイス銀行員の豊島逸夫氏)
確かに新規発行する国債額もここ数年は年40兆円前後。あとは市中から買い漁るしかない。大量に買われた結果、先週には長期金利が一時、最低の0.19%まで低迷する始末だ。
「追加緩和というシステムはある。でも大砲にこめる弾が尽きている。追い詰められた日銀は、年末に追加緩和ではない『補完措置』を発表した。あれで切り札がないことが露呈し、市場が失望した。余計なことを言わなければよかったのに」と豊島氏。「バズーカ3」の可能性には「投資信託の買い増しを『追加緩和』と称してやるぐらい。ただ線香花火程度ですよ。日経平均をはやすのもせいぜい1週間、下手すると翌日に株価が戻す可能性もあるのでは」と冷ややかだ。
経済評論家の斎藤満氏も「年80兆円買い入れも無理。日銀は『まだ手はある』と見せたいが、もうない。これで株が上がらなければ、買い入れの増額公表でバズーカを撃つ可能性はあるが、そのときは安倍相場が幻想だったとバレるときです」
これからどうなるのか。前出の豊島氏が本誌読者だけにとっておきのシナリオを教えてくれた。このアベノミクス劇場公演は3部で構成する。第1部は黒田バズーカ主演の「金融の幕」なのだが、これは線香花火を最後に終幕。次に始まる第2部は「財政の幕」だ。
あらすじはこうだ。何と言っても安倍政権は選挙で勝つのが最大の目標。参院選のある7月まで、財政バラマキ祭りがあるという。例えば「高齢者3万円給付金」がその一例だ。バラマキとわかっていても、「混乱のさなかにある世間にも夢を見たいムードがある。これに訴える政策を次々と細かく打ち出し、選挙を乗り切るつもりです」と豊島氏。ただ第2部は長くない。あくまで選挙までだからだ。
これにはSBI証券シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏も「選挙前の株高を目指し、バズーカを撃つでしょう。ただ7〜9月は株価は下へたたき込まれる。選挙後は厳しい政策が相次ぐためです。衆参ダブル選で自民大勝なら『信任を得た』として憲法改正など余計にやりたいことをやり始めます。そうなれば景気対策は手薄となり、経済に悪影響も出てくる」とみる。
さてシナリオに戻ろう。フィナーレの第3部はいかに。テーマはいよいよ本丸の「成長戦略の幕」だ。豊島氏は続ける。
「選挙さえ終われば政治家は急がなくなる。成長戦略の進捗を問われれば、言葉の最後は『努力します』や、最近はやりの『汗を流します』を繰り返す。これを延々と続けて終幕ですよ」
だがこれで「終わる」わけではないのだ。斎藤氏はこう占う。
「緩和マネーをどうするのか。その“出口”を今の日銀スタッフは『できない』と諦めている。とんでもない負の荷物が残る。次期総裁は大変です。(18年で任期終了の)黒田東彦総裁の次のなり手は出てこない」
第4部がどうやらある。大巨編の「負担の幕」。主演はもちろん国民である。
※週刊朝日 2016年1月29日号より抜粋