自分より貧しい人に囲まれて暮らすとお金持ちになれる?
これぞオクシモロンですね。世の中は、白か黒でもなく、何事にも相反する部分が混じっています。私は常に「自分より成功している人、優れた人に囲まれよ」と口酸っぱくいっていますが、お金の使い方まで影響されるべきではないと思います。
「下町を馬鹿にするものはお金持ちになれない」というのはその通りだと思います。これは、あくまで支出面の話で、そこをカットして貯蓄に回すという話ですが。逆に、収入やネットワークを増進するためには、違う話だと思いますが。
お金持ちに囲まれて自分もお金持ちになったつもりで、バンバン使うのがまずいのは当たり前です。
ボストン大学社会学教授のジュリエット.B.ショア教授が、アメリカの大企業で正規雇用者として働く人々(中流階級および中流階級上層)を対象にした調査では、2つの興味深い傾向が判明しました。
(1)自分より貧しい人に囲まれて生活すれば、どんどん豊かになる(お金が貯まる)。
(2)逆に、自分があこがれていたり、こうなりたいと思っていたりする上位集団に囲まれて生活し、そうした集団に無理してついていこうとすると、貯金はどんどん減る。
今回、私が特に掘り下げてみたいのは、(2)です。
教授によれば、人は誰もが周囲の見えない同調圧力の影響を受けやすいため、コツコツと貯蓄しようと思ってもこの圧力によって消費行動に走ってしまい貯蓄は増えない、ということです。
将来、富裕層になることを目標としたい読者であれば、ちょっと気になる調査分析かもしれません。周囲につられてモノをいっぱい買ってしまう。お金を浪費してしまう。この由々しき問題を解決する方法はないでしょうか。例えば、こんな対策はどうでしょうか。
周囲に自分より経済的な上位集団が多い場合は、引っ越すのです。引っ越す先は、その地域で自分の収入がトップクラスとなるようなエリアです。つまり、あえて「ダウングレード」して住むということです。
どんな町にも山手と下町があるかと思います。そんな中で、下町を選んで住むということも1つの手段かもしれません。こんなふうに考えてみてください。
海外駐在員の方が、物価の安い発展途上国で働く時、本国(日本)の水準で給料をもらっていれば無理なく貯金できるはずです。アジアの国にいくと、運転手付き、メイド付きでも日本に比べて生活コストが安いことが多いです。結果、お金が貯まる。ある意味、会社から「下町」へ引っ越すことを命じられたおかげで、貯金できるのです。
国内転勤でも、同じことが言えます。
東京本社採用の方が、地方転勤で物価が安い地域に赴任した場合、給料は通常、東京の水準で支払われるはずです。地方は光熱費が高いケースがあり、家電製品なども東京より高いことがあるので、地方生活のコストが常に安いとは言い切れませんが、全体的に見ると東京にいるよりも貯金できます。
では、もっと近場、例えば通勤エリア内などでこれと同じ貯金効果を生むことはできないでしょうか?
できます。
東京都民の平均所得*は、トップが港区で932万円、最下位が足立区で319万円です。ただし、これは納税義務者の平均ですので、世帯収入でいくとこれの何割り増しかにはなると思います。
*都総務局行政部区政課「平成26年度市町村税課税状況等の調査」の区の総所得を納税義務者数で割って算出。
同じ東京23区内においても、平均所得には実に3倍の格差があります。
そして、各区の生活関連施設(スーパーなど)の価格相場は平均年収と一定の相関関係があります。食料品の価格相場や、駐車場の10分あたりの額、幼児教室の授業料など何もかもが大幅に違っています。レートが異なるのです。
現在、港区に住む平均的な所得の人には、知らずのうちに消費を増やす方向への圧力がかかっていると想像できます。しかし、前出の教授の論を当てはめると、同区からもっと平均年収の低い他の区へ移り住めば、消費を減らす方向への同調圧力がかかってくるということです。
では、同調圧力とは具体的にどんなものでしょうか。
例えば、引っ越した先の地域で自分の子供だけが高級ブランドの服を着て、“浮いて”しまったら……。学校の級友からいじめを受けるかもしれない、と母親は感じるかもしれません。子供だけでなく、ママ友からの壮絶ないじめの可能性も否定できません。妬み嫉みのたぐいで、あることないこと陰で悪口を言われるかもしれません。そんな危険を察知して、「脱ブランド化」します。同調することで危機回避するわけです。
最初は経済格差にまつわるそうした周囲の反応に当惑することもあるでしょうが、目立つことを避けて周囲の人たちの生活水準に合わせることに抵抗がなくなれば、案外楽なものかもしれません。例えば、住む家はあれこれ物件選びに悩むことなく賃貸に決定、外食は基本ファミレス、車は所有しないか軽自動車という具合に、着るのは◯◯、遊ぶ場所は△△、旅行は□□とダウングレードしていく。
年収932万円だけど、年収319万円生活のでき上がりです。
ところで、いま人気になっているふるさと納税は、年収932万円で夫婦と子ども1人の家庭なら年間約15万円を納税できます。これにより、「見返り」としてもらえるお米を含むかなりの食料が「無料」で賄えることになります(ちなみに、ふるさと納税3万円で、お米なら60kg入手可能)。
こういった生活を続ければ、年収900万以上の方ならおそらく毎年最低でも500万は貯金できるのではないでしょうか? これが、将来的に目指す複数の「財布」、つまり事業所得、不動産所得、配当所得のベースの種銭≠ノなっていきます。
富裕層への道は、給与所得を増やさずに他の所得を太らせていくことがポイントですが、種銭をつくらなければどの種類の所得もスタートを切ることができません。
資産形成の初期の段階で、自分の収入が周囲より低いのに、見栄や同調圧力などによって分不相応の場所に住むような行為をしていては、大事な種銭を貯められません。これは将来的な資産形成に十分な致命傷を与えるインパクトがあります。
住む場所の見直しは長期にわたる貯蓄への影響が大きいため、思っている以上に重要な検討事項となります。
ただし、この見直しは、その場所に将来ずっと住まなければならないことを意味しません。
不動産所得、配当所得などの運用所得が積みあがってきて、次の場所に移ってもその場所で十分にトップクラスの収入を得ている状況が確認できるのならば、問題はありません。
「自分より上」の人が多くなければ、段階的にアップグレードしていくことは許されるのです。生活を向上させながらストレスをためずに貯蓄額を増加させるという両立が可能になってきます。
最初のダウングレードした家はいずれ引っ越すことを前提とするという意味でも、家を購入するのではなく賃貸にすべきでしょう。住宅投資によって資産を構築する方法についてはまた別の機会にお話ししたいと思います。
しかしながら、種銭を貯めるために住環境の見直しをするという話をすると、「高収入貧乏の谷**」にはまり込んでいる人たちはこんな反論をすると思います。
**年収1200万〜3000万の高収入世帯でありながら、生活コストが多く、貯金ができない家庭
「足立区は毎日犯罪が起こっていて環境が悪いから、生活コストが安くても子供の住む場所としてふさわしくない」
実際、足立区が「防犯ボランティアフォーラム2011」で発表している、「他区から見た足立区のイメージ」は次のようなものです。
・スウェット・ジャージで出歩いている人が多い。
・若者がコンビニの前でたむろしている。
・ニュースで流れる事件発生場所で、足立区の名前をよく聞く。
・自分は大田区(田園調布)に住んでいるが、足立区は治安が悪いと思う。
・足立ナンバーの車は、怖い人が乗っていたり、車高が低かったりするものが多い。
本当にそうでしょうか。「足立区は住むには適さない」という反論の根っこにあるのは、単なる競争的消費の生活からのダウングレードを「都落ち」と考えるちっぽけなプライドによる偏見ではないかと私は考えています。なぜ、そう断言できるのか。
本当にそうでしょうか。「足立区は住むには適さない」という反論の根っこにあるのは、単なる競争的消費の生活からのダウングレードを「都落ち」と考えるちっぽけなプライドによる偏見ではないかと私は考えています。なぜ、そう断言できるのか。
警視庁の自治体別刑法犯発生件数を元に人口1000人あたりの平成26年の犯罪発生件数を計算するとトップ5は次の通りです。
千代田区 66.34
渋谷区 27.86
新宿区 25.42
台東区 23.20
豊島区 22.48
そして、問題の足立区は11.27とトップの千代田区の人口1000人あたりの犯罪発生件数の約6分の1に過ぎず、23区内でランキング15位とむしろ犯罪が少ないほうから数えたほうがいいくらいです。
これらの区の平均年収と23区でのランキングは次の通りです。
千代田区 779万円(2位)
渋谷区 685万円(3位)
新宿区 479万円(8位)
台東区 382万円(16位)
豊島区 407万円(11位)
これを見ても、年収の高低と人口1000人あたりの犯罪発生件数には明確な関連性は見いだせません。
穴場「北千住」は富裕層のゆりかごだ
犯罪は人間が起こすことなので、区の人口と面積その他どの要因が犯罪発生件数と結び付いているかを考えていかなければならないでしょうが、少なくとも平均年収が低いエリアと治安の悪さとに相関関係があるとは言えないのではないでしょうか。
ちなみに、足立区では地域や警察などと連携して「ビューティフル・ウインドウズ運動」というものをやっているそうです。
足立区の公式サイトにはこうあります。
〈アメリカ合衆国ニューヨーク市は、軽微な犯罪を取り締まることで凶悪犯罪を抑止し、治安を回復させました。これは、割れた窓ガラスを放置するような軽微なことから地域全体が荒廃し、犯罪も増えてしまうという「割れ窓理論(ブロークン・ウインドウズ)」による対策です。これを参考に、「美しいまち」を印象付けることで犯罪を抑止しようという区独自の運動が「ビューティフル・ウインドウズ」です〉
具体的には、地域防犯ボランティアによる見回り、区内全域での歩きタバコの禁止、自転車盗難されにくいシリンダー錠の推進、通学路や公園に花を植える美化運動などがあげられます。
繰り返しますが、足立区は他の区と比べて犯罪発生件数が多いわけではありません。「高収入貧乏の谷」の方が、そこに居を構えることに抵抗感を感じるとすれば、はじめに結論ありきで決め付けているからかもしれません。
住まいにおけるブランド志向を持つことは悪いことではないとは思いますが、その人の資産形成過程に応じた分相応の場所にしないと結果的にはランクアップできないまま停滞してしまうリスクがあります。
足立区にある北千住は常磐線、千代田線、日比谷線、伊勢崎線、つくばエクスプレスなどが乗り入れていて世界で5位の年間5億5000万人が乗り降りしています。「日本で」じゃないですよ。「世界で」です。利便性は抜群にいいです。
とはいえ、リクルートsuumoの「住みたい街ランキング2015」にはまったく名前が挙がってきませんが、「穴場だとおもう街ランキング2015」では北千住が1位を獲得しています。
「憧れやネームバリューよりも、交通利便性、住み心地、コストパフォーマンスを優先したい人にはおすすめだ」(suumo)ということです。
未来の富裕層を目指して、下町の賃貸アパートからはじめの一歩を踏み出すというのもありなんじゃないでしょうか?