「店」はなぜ人気か。
例えば、給与年収1億円の男性が昨年、町に400万円をふるさと納税したとする。自己負担は2千円で、399万8千円は男性の所得税と住民税から減額される。町からは寄付額の7割、280万円分の金券が贈られ、2千円を引いた279万8千円分が「もうけ」になる。金券を資産に換えれば節税完了だ。
「大多喜百貨店」は客に金券を郵送させ、高級品を送るのが売りだった。東京の業者が町に「支店」を登記したのは15年4月。町は金券を扱える業者として登録した。業者が持ち込んだ金券は町が換金する。業者は「町にまずはネット販売でいいと言われた」。最近になってネット通販はやめたという。
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やあ
金券の束、町内の店に次々
千葉県大多喜町に2015年末に現れた「大多喜ウォルマーケット」もふるさと納税で贈られた金券を扱い、ネットで家電製品の多様な品ぞろえを宣伝する。だが、店内をのぞくと陳列棚には歯ブラシやシャンプー。建物は廃業したラーメン店で、看板に「ら〜めん かぞく」の文字が浮かぶ。敷地は雑草だらけだ。店の関係者は開業の理由について「金券の利用も念頭にあった」と言う。
こうした業者が町に進出するのは、町が刷った大量の金券と市場規模が釣り合っていないこともある。町が15年度に贈った金券は約12億円。町の年間の町税収入の10億円を上回る。小売業売上高が90億円ほどの町に多額の金券をさばける店は多くないからだ。
「ふるさと納税の目的は節税」。「100%得をする ふるさと納税生活」の著者、金森重樹氏(46)は断言する。年収は7億円にのぼるといい、15年度にふるさと納税した額は約1300万円。うち約1千万円は大多喜町へ。「大多喜百貨店」を中心に通販で高級腕時計やシャンパンなど数百万円分を買ったという。
大多喜町のほかのお店にも足を運んでみた。
大型連休初日の4月29日、家族経営の電器店。川崎ナンバーの高級外車でやってきた自営業の男性と妻が、最新の冷蔵庫など約25万円分を選んでいた。大半を金券で購入。男性は「町を4回訪れ、大きな買い物はここでした」と話した。
町の複数の電器店が、事実上の通信販売も行ってきた。この店にも全国から注文メールが押し寄せ、対応にてんてこ舞いだ。多くの客は実質負担2千円で高額の家電製品を買っていることになるが、店主は「ネットで価格を比べて、価格にかなり敏感だ」と語る。
町の中心部のスーパー「いなげや」では、別の夫婦がカートを連ね、かご四つに山盛りの買い物をしていた。レジで渡したのは分厚い金券の束だった。
町内のある業者はここ数カ月で200万〜700万円の新車を数台、全額金券で売った。業者は「町がからんだ、お金持ちの合法的な節税対策が行われている。これでいいのかと迷いながら販売した」。
総務省は4月、金券や家電製品など資産性の高い返礼品を贈らないよう自治体に通知。しかし、大多喜町は金券発行を続け、自治体の競争は過熱する。町の担当者は「金券は町内使用が前提。一般的な『金券』には当たらない」とみる。
総務省の通知に逆行するように4月、千葉県勝浦市と群馬県渋川市は金券を返礼品に加えた。金券で潤う近隣の自治体に追随した。勝浦市の担当者は「隣が大多喜町。寄付や市内の消費が流出するおそれがあった」と打ち明けた。
■見返り前提、利かぬ歯止め
ふるさと納税は、菅義偉官房長官が第1次安倍政権で総務相の時、「都会の人もふるさとに恩返ししたい思いがある」と創設を求めた。しかし、菅氏が2007年に設けた研究会で返礼品競争への懸念はすでにあった。豪華な返礼品を贈る自治体ばかりに寄付が集まる半面、節度を保つ自治体では、地方の都市でも税収が失われてしまう。
本来、「寄付」は見返りを求めない。実際、熊本地震後、熊本県南阿蘇村には、返礼品を贈れないのにふるさと納税による寄付は数週間で15年度の4倍の額が集まった。見返りが前提の今の制度はこうした寄付の理念をゆがめる。
一部では高所得者の「節税対策」の形で利用されている。国や地方に納められ、福祉や子育てなどに充てられるべき税は、返礼品に化けて目減りする。街づくり専門家の木下斉(ひとし)氏は「返礼品頼みのふるさと納税は財源のほしい自治体にとって麻薬。業者も返礼品を買い集めてくれる役所に依存する。地方経済のためにならない」と話す。