(中略)
●認識があったのか、なかったのかを立証
ーーほかに印象に残っている裁判はありますか?
「読売巨人軍をめぐる訴訟も印象に残っています」
ーー週刊文春が2012年6〜7月に報道した記事で、巨人軍の原辰徳監督(当時)が過去の女性関係をめぐり、元暴力団員に1億円を要求されて支払ったと報じた件ですね。読売巨人軍が支払った相手を「反社会的勢力ではない」と会見で説明したことに対して、週刊文春は「読売のウソ」と報じて、読売巨人軍から名誉毀損で訴えられました。この裁判のポイントはどこにあったのでしょうか?
「原前監督が元暴力団員に1億円払ったということ自体は、争いようのない事実なんです。
ただ、もし反社会的勢力だと知っていて渡したことが事実となると、プロ野球協約違反になって、原さんが監督をやめなければいけない可能性がある。だから、週刊文春では、読売巨人軍が反社会的勢力だと知っていたんだけど、知らないと嘘をついたのではないかと指摘する記事を出したんですよ。
そうしたら、読売巨人軍は『反社会的勢力だという認識がなかった』と名誉毀損で訴えてきたんです。
彼らの内面を立証しなければならない異例の裁判になりました。彼らがそういう認識がなかったと言うのを『いや、あったでしょ』と覆す非常にトリッキーな裁判です。週刊文春としては、胸を張れるスクープ記事だったので、問題とされた一点だけで全体が事実ではないという印象を持たれることを避けるため、裁判対策に全力で臨みました」
ーー具体的にはどう取り組んだのですか?
「エース格の記者に裁判対策に力を入れてもらいました。
彼は、恐喝したのが紛れもなく暴力団員であることを示す『盃事(さかずきごと)』の写真を入手していました。「親」と「子」の契りを交わす暴力団特有の儀式で、客観的な証拠です。
この写真に加え、さらに数十ページに及ぶ詳細な陳述書を裁判所に提出しました。記事を出して終わるのではなく、その後も十分な訴訟対策を怠りませんでした。そうして得た成果が、一審、二審の完勝を引き寄せたと思っています」