審議の中身を知ったら、本人も愕然とするのではないか。
22日に閉幕した初場所で優勝し、横綱昇進を確実にした大関稀勢の里(30)。横綱昇進が決まった23日は照れくさそうにほほ笑む場面もあったものの、「体も気持ちも元気。まだまだ強くなります。成績的にもまだまだ、でしょう。もっと成長していかないといけない」と、すぐさま気を引き締めた。
今場所は休場した日馬富士、鶴竜両横綱との対戦はなし。大関の豪栄道戦は不戦勝だった。14勝1敗の優勝といっても、高いレベルでないことは稀勢の里自身も理解しているはずだ。
しかし、そうした事情はどこ吹く風、議論もせずにさっさと昇進を決めたのが、同日行われた横綱審議委員会(横審)だ。要した時間はわずか15分弱。最初から結論ありきの満場一致だった。
横審の設立は1950年。その目的は、相撲協会が安易に横綱を乱造するのを防ぎ、「強い横綱」をつくることだ。
先場所の稀勢の里は優勝次点とはいえ12勝3敗。14勝1敗の鶴竜とは2差もつけられた。こうした2場所連続優勝でない状況の時こそ、慎重な議論をしなければならないはずだ。
もっとも、今の横審にそれを求めるのは八百屋で魚。耳を疑ったのは、千葉大学名誉教授の守屋秀繁委員長(75)の発言だ。
「(去年は豪栄道と琴奨菊の)2大関の成績が(優勝後に)振るわなかった。そういうことが(稀勢の里にも)なければいいと八角理事長に聞いた。そうしたら、『非常に安定した力の持ち主』と言われた」
本来すべき審議をハナから放棄。相撲協会のお目付け役のはずが、逆に意見を求めているのだから本末転倒である。
■「横審は相撲協会の応援団ではない」
そもそも、この1月末で任期満了となる守屋委員長には相撲に対する熱意なんてあるのかどうか。少なくとも自身が書いている「名誉教授のブログ」を読むと、そう思わざるをえないのだ。
「横綱審議委員長も来年1月末で任期満了ですので、そのあとは相撲に邪魔されずゴルフに精進できるでしょう」(16年10月2日)
「取り敢えず横審委員長の任期が終わる来年1月末までは真面目に相撲を見ます」(同7月17日)
ブログの中で「もともと相撲よりゴルフが好き」とあるのだから、すべて本音ではないか。こんなのが委員長ではマトモな審議ができないのも無理はない。
守屋委員長と同じく任期満了となる大島委員は「守屋委員長とも話したが、我々の引退に(稀勢の里が)花を添えてくれるなあって」と、呵々大笑。これでは自分たちの花道を飾るために日本人横綱をつくったのではと疑われても不思議ではない。
評論家の中澤潔氏は「横審は決して相撲協会の応援団ではない。本来ならば、こういう時こそ待ったをかけるのが横審の仕事ではないか」と話している。
過去には横綱昇進の声が高まる中、横審にソッポを向かれ、悔しさをバネに横綱に上り詰めた力士もいる。近年では63代横綱の旭富士だ。
大関旭富士は89年1月場所から5月場所まで優勝同点、次点、優勝同点の成績で40勝(5敗)をあげた。横綱昇進の基準である「大関で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」に該当するといわれたが、一度も優勝のない北尾(後の双羽黒)が横綱に昇進した後、不祥事で廃業した一件がネックとなり、横綱昇進基準が厳守されて横綱昇進は消えた。しかし2年後の5月、7月場所に連続優勝して昇進を果たした。
相撲ファンの菅野宏三氏(ビジネス評論家)がこう言う。
「2場所連続優勝は横綱昇進の基準です。それに準ずる成績というのは、いくらでも解釈を変えられる。会社でいえば、社長になるだけの器と能力がない者がトップになっても、自身も社員も苦労するだけ。対外的にも信用を失い最悪なら倒産です。横審も相撲協会の理事も日本人横綱誕生のムードに流されず、万人が納得する成績で稀勢の里を昇進させるべきです。ひいてはそれが、課題といわれる稀勢の里の心を鍛え、大相撲のよき伝統を守ることになると思う。横綱になれば後戻りはできない。成績が悪ければ引退です。促成栽培のように横綱をつくり、早期に土俵を去ることになれば、大相撲の看板を1人殺すことになる。大きな損失であり、今の相撲人気に水を差す。自分たちで大相撲の首を絞めることと同じです」
専門家も好角家も「時期尚早」と話している。稀勢の里に今後、本当に横綱を張り続けるだけの実力があるなら、2場所連続優勝でそれを証明して昇進させればよい。来場所以降、稀勢の里本人も協会も、こんなはずじゃなかったと、横綱昇進を後悔しても遅い。
鶴竜を降格させろよ
鶴竜て
鶴田と天竜か