お笑いトリオ、安田大サーカスのクロちゃん(42)が、今月8日に脳動脈瘤(りゅう)を治療するカテーテル手術を受けていた、と報じられた。脳動脈瘤は破裂すると、くも膜下出血を発症する可能性があるとされる。発症すると約3分の1の人が亡くなり、生命が助かった人でも、半数に後遺症が残るといわれている。
報道によると、クロちゃんは昨年10月放送のTBS系「名医のTHE太鼓判!」で、眉間の裏部分の脳に直径7ミリの動脈瘤が判明。一般的に5ミリ以上で破裂の可能性があり、医師からは「7ミリを超えると破裂率が飛躍的に上がり、くも膜下出血の危険性が高まる」と、余命3年を宣告されていた。手術は、脚の付け根から挿入したカテーテルを血管内から脳まで運び、動脈瘤内部にコイルを詰めて破裂を防ぐもので、2時間に及んだが無事に成功。13日に退院し、翌14日のラジオ番組で仕事復帰したという。
脳動脈瘤の破裂を防ぐためにおこなわれる主な治療は、「コイル塞栓(そくせん)術」と、「ネッククリッピング術」の二つがあり、「近年はコイル塞栓術が優先されるようになっている」と流山中央病院脳神経外科部長の金澤隆三郎医師は語る。ここでは、好評発売中の週刊朝日ムック「突然死を防ぐ脳と心臓のいい病院2019」から、脳動脈瘤治療の詳細を紹介する。
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頭蓋骨の下には脳を保護する3層の膜があります。2層目にあるくも膜と、脳に密着している軟膜の間のくも膜下腔という隙間には脳動脈が走っています。この動脈にできた、瘤(こぶ)のような膨らみを脳動脈瘤(りゅう)と呼びます。
「主に生じるのは脳動脈の分岐点です。そこにもともと弱い構造があるために生じるといわれています」
そう語るのは、流山中央病院脳神経外科部長の金澤隆三郎医師。脳動脈瘤ができていても、たいていの場合は症状がなく、頭痛やめまいといった、別の悩みでたまたま検査を受けて見つかることがほとんどです。
恐ろしいのが、何らかのきっかけで破裂し、くも膜下腔内に出血するくも膜下出血を発症する可能性があることです。この場合、約3分の1の人が亡くなり、生命が助かった人でも、半数に後遺症が残るといわれています。
くも膜下出血を発症すると、多くにおいて今までに感じたことがないような激しい頭痛が起こり、ときには心肺停止状態に陥ることもあります。ただ、高齢者は痛みに鈍くなっている場合があり、医療機関の受診までに時間がかかることもあるといいます。
「くも膜下出血を発症した方は、ほぼ100%、血圧も上昇しています。もし気になる頭痛があったら血圧を測り、高かったらすぐ診察を受けたほうがよいでしょう」
脳動脈瘤の発症のリスクとされるのが、高血圧や、身内で脳動脈瘤やくも膜下出血を発症している家族歴。生活習慣では大量飲酒や喫煙が挙げられます。
■すべてが治療対象ではなく大きさや形から要否を決める
「脳梗塞や脳出血、くも膜下出血を発症した血縁者がいる方や、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を持つ方は、50〜 60代になったら一度検査を受けたほうがよいでしょう」
検査として、まず外来でおこなわれるのがMRI検査で、2ミリ程度の小さな瘤でも発見できます。そのうえで確定診断や、治療法の見極めのため、造影剤を使ったCT検査や、カテーテルを直接脳動脈に通して調べる脳血管撮影がおこなわれます。
脳動脈瘤が見つかっても、すべてが積極的な治療の対象になるわけではありません。治療の検討を要するのは、5ミリ以上の大きさの瘤や、突起があるような、形が球状でない瘤、定期的な検査で形に変化が生じた瘤。そうでなければ破裂の可能性は低いため、経過観察を続けていきます。ただ、経過観察でよいと思われる瘤であっても、破裂する可能性はゼロではないため、定期的なチェックやリスク因子のコントロールは重要です。
■開頭での手術と血管内からの治療
脳動脈瘤の破裂を防ぐためにおこなわれる主な治療は、「コイル塞栓術」と、「ネッククリッピング術」の二つです。
コイル塞栓術は、手首や足の血管から、カテーテルと呼ばれる細い管を通して、動脈瘤の中にコイルと呼ばれる軟らかい金属の糸を詰めていきます。内部を埋めているコイルと、隙間の血液が固まることで、脳動脈瘤がふさがり、血液が流れ込まなくなります。からだへの負担が少ないのが大きなメリットですが、まれに入り口部分に隙間ができて、血液が動脈瘤内に再度流れ込むことがあります。コイルの進歩は著しく、この短所は大きく改善されてきています。
一方のネッククリッピング術では、全身麻酔をかけて頭蓋骨の一部を切り開き、脳動脈瘤の根元を金属のクリップで挟みます。メリットは入り口が完全に閉鎖されるために根治性が高いことです。
くも膜下出血でも両治療が中心です。破裂した脳動脈瘤は、一度、破れた箇所が自然に塞がって止血されます。再出血すると致死率が高まるため、それを防ぐためにおこなわれます。
脳動脈瘤は、もし治療を要すると判断された場合、患者の年齢や、入り口の広さ、脳動脈瘤の位置、重症度などを踏まえ、コイル塞栓術とネッククリッピング術のどちらかをおこないます。ただ、未破裂ではコイル塞栓術が優先されるようになっていると、金澤医師は語ります。
「機器の進歩に伴い、コイル塞栓術で治療できる症例が増えてきました。未破裂脳動脈瘤では、予防を目的とする治療のため、両治療で同じ結果が得られるなら、ほとんどの患者さんがコイル塞栓術を希望されます」
※週刊朝日ムック「突然死を防ぐ脳と心臓のいい病院2019」から