一国を代表する新聞社にも同じような例がある。韓国最大の発行部数を誇る「朝鮮日報」が李氏の発言を擁護する目的で「アキヒトは手遅れになる前にユダヤ人犠牲者慰霊碑前で膝をついて謝罪したブラント西ドイツ首相のように膝をついて謝罪する写真を歴史に残すべきである」との主張を展開したことがある。1970年12月7日、ブラント西ドイツ首相はユダヤ人犠牲者慰霊碑前で膝をついて謝罪しており、その写真が通信社電で配信された。同紙は同じことを天皇陛下もすべきだと主張したのだが天皇陛下について政治的な指導者として誤って認識していたとしかいいようがない。
中国でも日本の戦争責任を追及する際には激しくもなるが、これは江沢民指導部が1989年の天安門事件により国内情勢の混乱を外交に転嫁しようとして反日教育を大々的に展開してことが大きな原因の一つだ。これにより若い世代の日本観が大きく歪められたことは歴史が証明するところだ。韓国についても日本統治時代の歴史観を現在の日本観にすり変えられてしまっているところがないとはいえないだろう。歴史は歴史としてしっかりと教えてそのうえで日本を批判するのならばまだ理解できるが、天皇陛下の基本的な位置づけすら間違っている教育を糺すほうが先ではないか。
我々日本人も当時の日本の軍部が朝鮮半島でどのような植民地政策を展開したのかは十分知っているとはいえないかもしれないが韓国内で今後もこのようなことが続けば日本の韓国観も徐々に歪んでしまいそれこそ日韓両国関係は修復の余地がないほど悪化することも否定できないだろう。
韓国の団体「太平洋戦争犠牲者遺族会」などは25日、ソウル市内の日本大使館前で集会を開くとともに、声明を発表し「韓日の歴史の一日も早い清算」に向け「明仁日王(天皇)は戦争責任について謝罪・和解してから譲位するため訪韓すべきだ」と主張した。これに先立つ今月中旬、韓国の文喜相国会議長が米メディア「ブルームバーグ通信」のインタビューで、従軍慰安婦問題に関して「日本を代表する首相かあるいは間もなく退位する天皇が謝罪するのが望ましいと思う」と述べたうえで「天皇は戦争犯罪の主犯の息子ではないか。その方が一度(慰安婦だった)おばあさんたちの手を握って心から申し訳なかったとひとこと言えば慰安婦問題による確執はすっきり解消されるだろう」と指摘している。
なぜこのような日本の国民感情をまったく理解していない暴言が出てくるのだろうか。そもそも天皇陛下は日本国憲法では「日本国民統合の象徴」と記されている。政治的な行為を行うことはできないはずで、文氏が主張するように、戦争責任を謝罪するために韓国を訪問することなどできる道理はない。文氏は日韓議員連盟会長も務めたこともある「日本通」で通っているだけに天皇陛下に対するこのような浅薄な知識しか持っていなかったことは恥の上塗り以外の何ものでもない。その点遺族会も同様でありもっと日本のことを調べてから発言すべきだ。とはいっても韓国では天皇陛下は一般的に「日王」と呼ばれているらしいので一般の韓国国民からみれば天皇陛下は日本でもっと大きな権力を握っていると誤って認識されていても不思議ではない。
韓国の要人による天皇陛下への謝罪要求は何度も行われてきた。2012年には李明博大統領(当時)が天皇の訪韓に関して「独立運動で亡くなった方々を訪ねて心から謝罪するのであれば来てほしい」と発言。ただ、李氏は「(日王が)痛惜の念などというよくわからない単語を持ってくるだけなら、来る必要はない。韓国に来たいのであれば、独立運動家を回って跪(ひざまづ)いて謝るべきだ」とも述べている。しかし李氏は08年の韓国大統領就任以前から「日本には謝罪や反省は求めない」と発言。さらに大統領就任後の08年4月に訪日すると、天皇、皇后との会見時に韓国訪問を招請さえしているのである。その後、大統領の任期が切れる12年に前言を翻して前述の通り「来る必要はない」などと公言しているのだから「嘘つき」と言われても仕方がないだろう。