JRを例にとると東海道・山陽新幹線と一部の都市路線だけが繁栄し他の路線が衰退したのと同じような状況が生まれる。これは当然地方の切り捨てにつながる。地方はマイカー依存が進んでいるため困るのは高齢者や学生などの少数の「弱者」だ。
一方で日本郵政もユニバーサルサービスの維持に苦しんでいる。こちらは日本郵政を後追いしようとして小口で失敗しつつあるヤマト運輸と小口を切り捨てて法人に特化して成功している佐川急便という状況がある。つまりやはりお金のかかるコンシューマー向けを切り捨てた方が儲かる事業が作れる。
日本郵政とヤマト運輸は協業化を加速しなんとか生き残りを図ろうとしている。Amazonは対策として中小の運輸会社に依存するようになったがそれだけでは足りずフリーランスを集めている。
国産家電メーカーが次々と市場から撤退したことから分かるように「コンシューマー向け」は儲からない事業になっている。家電メーカーの場合は台湾か中国への身売りという状況も生まれている。いずれのケースも市場原理に任せると地方の小口が切り離され外資に売り渡されるという状況が生まれている。
個人消費が落ち込んでおり個人向け事業には価格競争圧力がある。「みんなの賃金上昇」が実現しない限り地方のビジネスが成り立ちにくいという状況はこれからも続くだろう。
仮にこの議論が自民党の中にある都市対地方という対立に火をつけると、既に求心力を失っている岸田政権で議論を収拾することは難しくなるだろう。
確かに、NTT法にある「あまねく義務」規定を維持したまま自由競争に晒すことはできない。また、NTTの株を新しく買いたいという人が期待するのはやはり充実したインフラ網に裏打ちされたNTTの優位性だろう。自民党としてはできるだけ高値で株式を売りたいのだからこれを切り離した提案を行うとも考えにくい。
さらに言えば「地方を切り捨てることによって増税が回避できるのでは」という議論になれば当然都市部の住民たちは「さっさと民営化してしまえ」と考えるだろう。
何らかの意思決定が必要で「すべての人が納得する」ような提案が自然発生的に出てくることは考えにくい。
ではNTTの完全民営化はが実現するとどんな結果になるだろうか。おそらく地方の小口切り捨てということになるだろう。