「岸田首相は、まるで穴熊だ」
ベテラン政治記者がそうつぶやく。「穴熊」とは将棋用語で、玉を将棋盤の隅に置き、周囲を金銀桂香などの駒で守る戦法。玉が「穴にもぐった熊」のように見えることから、こう呼ばれている。
「穴熊は守りが堅いため、相手はなかなか王手をかけられません。しかし、自分から攻撃を仕掛けることが難しいため、防戦一方にもなりやい。そのため、徐々に守りは崩され、玉が詰んでしまうことも多いんです」(将棋ファン)
マスコミ各社の世論調査で、内閣支持率が軒並み「政権発足以来最低」という危険水域になり、窮地の岸田文雄首相。しかし「低支持率すぎて、逆に衆院の解散総選挙ができない」(永田町関係者)という状況にもなっている。
11月9日、岸田首相は記者団に「まずは経済対策、先送りできない課題に一意専心取り組む。それ以外のことは考えていない」と、事実上、近々は解散総選挙をやらないことを表明、「王手」を逃れた。
また、この臨時国会に提出された、首相の年収が46万円、ほかの閣僚が32万円アップする給与法改正案でも、攻められながら「最後の一手」を避けることができた。
「当初、政府内では『首相、閣僚は行財政改革の観点から、給与の3割を国庫に返納しているから』と、この法案を通すつもりでいました。
しかし、物価高の影響で実質賃金が18カ月連続で下がり続け、国民からは『冗談じゃない』と大ブーイング。野党も国会で激しく追及したことから、法案を可決したうえで増額分を国庫に返納する方針に変えました。そうなると、首相の返納額はこれまでの分も含め1218万円になりますが、なんともお粗末な展開です」(政治担当記者)
返納になっても、国民の怒りは収まらない。ニュースサイトのコメント欄には《返納じゃなく法案をやめろって言う話です》《給与の額は引き上げつつ、しばらくは返納。ほとぼりが醒めたら、引き上げた額の給与を当たり前にもらう》《自主返納ということは、いわば口約束であり、法的拘束力がないわけだから、そんな口約束はいつでも反故に出来る》などの書き込みが目立っていた。
果たして「穴熊メガネ」は「詰む」のだろうか。
「それが、意外に難しいかもしれません。国民の声を聞かない『世論不在』で、不満はマグマのように溜まっていますが、自民党内に『ポスト岸田』が出てこないこともあり、2024年の自民党総裁選は『無投票再選になるかもしれない』という観測すらあります」(前出・政治担当記者)
玉を追い込んで囲う穴熊は、一穴が開くと、逃げ場がなくなるのも特徴だ。