「日本に来たら夢は見えなくなっていく」「日本は私の夢を殺した」「睡眠を売って夢を買うということを知った」――。ネパール人留学生たちの本音がみるみる画面からあふれ出る。希望を胸に来日した彼らの姿を長期取材したドキュメンタリー「ジャパニーズ・ドリーム 〜ネパール人留学生たちの日本〜」が29日夜11時30分から、NHKBSで放送される。悲痛な彼らの言葉からは、コンビニなどで黙々と働く外国人労働者たちが置かれた真実の一端が浮かび上がってくる。(文化部 大木隆士)
■NHKBSで今夜「ジャパニーズ・ドリーム」
東日本大震災後、中国や韓国からの留学生が減ったのを補うため、熱い視線が注がれたのがネパールだ。同国の留学生は急増し、2023年6月末時点で、1位の中国に次ぐ4万5000人にまで増加した。経済の活力は衰えたものの、現地の若者にとっては今も日本は成功のチャンスあふれる先進国と見られている。だが、留学生たちが直面する現実は残酷だ。
番組は、ネパール出身のディレクター、ディペシュ・カレルさんによる数年に及ぶリポートで構成。自身も日本の大学で学んだカレルさんは、苦しい生活を続ける留学生たちにカメラを向け続けた。留学生はまず日本語学校に入学するが、番組によると、留学費用は渡航費などでまず170万円が必要。現地では公務員の最低年収の6年分にあたる金額だといい、借金して来日した留学生たちは、勉強と並行してアルバイトに汗を流さなければならない。日本語がつたないうちは運送業の仕分けや弁当作りといった肉体労働や単純作業。上達するにつれ、コンビニなどのバイトが回ってくる。
■帰宅後も仕事の夫に妻が不満「私と話す時間がない」
大学に進学してIT関連企業への就職を目指すラズクマルさんは、学校から仲間と暮らす狭い部屋に戻ると、仮眠して夜のバイトへ出かけていく。翌日も学校に通わねばならない彼は「15分でも寝たい」と漏らす。その後、故郷で結婚した妻を呼び寄せた。ようやく大学にまで進学したが、苦労は続く。前途を悲観して自殺する留学生もいるといい、「自殺はこれからまだ増えると思う」と窮状を訴える。
一方、妻と来日して日本語学校を卒業後、日本で航空機の清掃を請け負う企業に就職したナラヤンさんは、祖国ではすでに大学を卒業しているエリートだけに心境は複雑だ。故郷に残した7歳の長男をようやく日本に迎え、家族一緒の生活となったが、小学校に入学した長男には日本語の壁が立ちはだかる。家庭のことを思うナラヤンさんは、勤務時間が不規則な機内清掃の仕事から、外国人労働者に仕事を斡旋(あっせん)する企業に転職。同胞の留学生に対し、仕事を管理する側に回った。ところが、今度は帰宅後も彼らからの電話に追われる状況に。それを見て、妻は「私と話す時間がない」と厳しいことを口にする。
来日から数か月が過ぎ、日本語の教科書を読めるようになった長男を見て、妻は誇らしげだ。しかしナラヤンさんは、いつか日本のビザが切れて帰国を余儀なくされる事態への備えも忘れない。自身の立場への不安がぬぐいきれないのだ。
■同胞ディレクターが引き出す彼らの本音
過酷なバイトと勉強、就職しても仕事に追われ、家族との時間も満足に取れない。それでも彼らはひたすら前に進み続ける。同胞ディレクターによる母国語での問いかけが、彼らの心を解きほぐし、本音を引き出していく。故郷の親族にはとても伝えられない苦境が続くが、それでもカメラに向かって見せる朗らかな表情がなんとも切ない。
留学生の存在が人手不足の現場を支えているのは事実だ。「ネパール人留学生は家族の絆と睡眠を犠牲にしながら、日本社会に貢献している」。彼らの悲痛な声は、果たして日本人に届いているだろうか。