炊き出しに並ぶ親子を尻目に4000万の高級車を買う富裕層 …統計が明らかにする日本の「格差」の真実
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」
そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。
◇目で見て感じる格差の「実感」
格差を定量的に示す試みは、どの指標を使うかなどによって結果が大きく変わってくる。先進7ヵ国(G7)内の比較で言えば、所得に関するジニ係数で見ると日本は米英に次ぐ格差大国となる。だが、トップ一パーセントがどれだけの資産を持っているかで比較すれば、日本は英国とイタリアに次いで平等な国との評価もできる(世界不平等研究所データベース)。これらのデータは橋本氏も指摘するように、公表までのタイムラグが大きく、データが揃った時には潮目は既に変わっている可能性もある。
筆者が好きなジャーナリズムに関する格言に、「一方が外は晴れていると言い、もう一方は雨が降っていると言うとき、記者のすべきことは両論を併記することではない。外に出てその目で確かめることだ」というのがある。
たしかに雨は降っている
これに従い、2022年の大晦日に特定非営利活動法人(NPO)「TENOHASI」による東京・池袋でのホームレスの人々への炊き出し(食料配布)の現場を取材した。筆者の予想を大きく上回る300人近くの人々が寒空の下、並んでいた。
清野賢司事務局長は「昔は50歳でも若く、30〜40代もほとんどいなかった。だが、この2〜3年は20代も珍しくなくなった。以前は1〜2パーセントしかいなかった女性も15パーセント程度に増え、中には子連れで並ぶ女性もいる」と、生活困窮者の若年化に危機感をあらわにしていた。また、食料配布に並ぶ人の数自体も、これまでの最高だったリーマン・ショック直後を超え、記録を更新していた。
一方で、東京都心部にある高級輸入車販売店ではまったく違う光景が広がっていた。この店が扱うスポーツカーは、最低でも一台2500万円。高い車種は4000万円を超す。だが、どのモデルも納車まで2年待ちだという。
セールスの男性は「新型コロナが始まり、ほんの一時期売り上げは落ち込んだが、今は完全にコロナ前以上に売れている。株高で資産が増えた人や、元々お金があり余っていた人たちが、海外旅行に行けないので『車でも買っておくか』と来ている」と話した。
これらはいずれもアネクドータル(逸話的、局所的)な材料に過ぎず、これをもって全体のトレンドを判断することはできないが、筆者が実際に見てきた光景である。そこには統計の数字には表れない手触りが存在する。
◇金融資産ゼロの世帯は3倍近く増
なお、日本自動車輸入組合によると、1000万円以上の超高級輸入車の販売は2021年、前年から23パーセントもの増加を記録し、2万8000台に迫った。全輸入車に占める一000万円以上の車種のシェアは初めて10パーセントを超えた。
よりマクロな統計としては、野村総合研究所が発表する富裕層(純金融資産が一億円以上5億円未満)と超富裕層(同5億円以上)の世帯数があるが、これらの合計が2021年に過去最多を更新した(実数は148・5万世帯)というデータとも符合する。
一方で、中間層の暮らし向きは良くなるどころか、悪化している。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2021年の世帯所得の中央値(平均ではなく、上から下まで順番に並べた際に真ん中にくる世帯の所得)は423万円で、1995年の545万円から大きく下がっている。
日銀などで構成する金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、金融資産がゼロという2人以上世帯は、1995年の7・9パーセントから、2021年には22・0パーセントと、3倍近くに増えている。
雨が降っていることは、明らかだと言っていいだろう。
『国際機関が警鐘を鳴らす「大絶滅時代」…全世界で最大「三十億人」が失われる未来がヤバすぎる』へ続く