戦後の日本経済を力強く牽引してきた自動車産業をめぐっては思わぬところにも落とし穴がある。整備士が不足し始めているのだ。
自動車は販売すればおしまいという商品ではない。安定的に利用するにはこまめなメンテナンスが必要である。それは、クルマを走らせる燃料がガソリンであるか、電気であるかを問わない。
高齢化で、今後は高齢者の自動車保有が進む。それは同時に、買い替えサイクルが長くなるということである。現役時代と比べて収入が少なくなり、一台を丁寧に乗り続けようという意識が強くなるためだ。
またかつてよりクルマの性能が向上したことも長く乗り続ける人を増やすこととなっている。長く乗るということは部品の交換が必要となることでもあり、自動車整備の需要はますます増える。需要が高まりを見せるのに整備する人が足らず、作業が滞ることになればクルマ離れに拍車をかけよう。整備士の不足は自動車の製造や販売にとって新たな経営上のマイナス要素となりかねないのである。
自動車整備学校入学者が約半減
では、整備士はどれくらい減っているのか、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会の「2021年度 自動車特定整備業実態調査」で直近の数字を確認してみよう。
整備要員数は39万8952人で前年度より266人(0.07%)減っている。整備士数も前年度より5274人(1.6%)少ない33万4319人だ。整備要員数に対する整備士数の割合(整備士保有率)は83.8%で1.3ポイント減少した。
整備要員の平均年齢(自企業の保有する車両の整備を行う事業所を除く)は前年度より0.7歳上昇して46.4歳となっている。ここにも高齢化の波は押し寄せている。
数字だけを見ると「減っているといっても微減ではないか」との印象を受けるが、自動車整備学校への入学者数を見るとそうは言っていられない。国交省の資料が2003年度から2016年度までの自動車整備学校への入学者数の推移を紹介しているが、急カーブで減少している。
2003年度(1万2300人)と2016年度(6800人)を比較すると44.7%もの大激減である。同期間の高校卒業者数の下落率は17.3%である。自動車整備学校入学者数の落ち込みがいかに大きいかが分かるだろう。
2012年度から2016年度にかけての自動車整備の有効求人倍率を見ても、各年度で全職種を上回り、年を追うごとにその差は拡大している。人材不足が年々深刻化していることを示すデータだ。
自動車整備学校入学者数の低迷は現在も続いている。関係者によると、2020年度は入学者数が約6300人だ。学科試験の申請者数も2005年度の7万人から3万6630人へとほぼ半減している。事態を重く見た国交省は整備士の仕事を紹介する啓発ポスターを作成したり、有識者会議で打開策を検討したりしている。