3月にまとまった休暇が取れた千葉県在住のSさんは、京都・大阪方面への旅行を計画していた。だが、ホテルの予約が取れない。2人で1部屋1泊3万円以内を予算としていたが、空いているのは1泊7〜8万円の高級ホテル、さもなければカプセルホテルだけだという。
桜の季節もホテルの予約はいっぱいだ。個人旅行で日本を訪れるシンガポールの友人から筆者に連絡があった。「3月下旬、東京の宿が取れない。申しわけないけど泊めてくれない?」
宿泊施設の予約は外国人客から埋まる
客室だけではない。主要な観光地も「満員御礼」の札が下がる。世界遺産に指定された岐阜県の白川郷もその1つ。白川郷は中国の大手旅行社「C-Trip」のコースにも組み込まれており、今や中国人に大人気の観光地だ。
白川郷観光協会によれば「ここ2年、アジアからの訪問客がどっと押し寄せている。今年は例年に比べてさらに多い」と言う。また、すでに来年の春節(2月8日)前後の宿泊予約の問い合わせも来ているといい、引きも切らぬ状況のようだ。
電話に出た協会担当者は「宿泊施設の予約は外国人客から埋まり、日本の旅行客はあぶれてしまう傾向がある」と説明する。
近年、日本を訪れる外国人旅行者の数が伸びているのはご存じの通り。2014年、訪日外国人旅行者数は、前年比29.4%増の1341万人となり、過去最高を更新した。2012〜2013年にかけて伸び悩んだ中国の訪日旅行者数も前年比83.3%増で、2014年は初めて200万人台の大台を突破した。
それに伴い、客室の需要も伸びている。2012年の年間述べ宿泊者数は約4億3950万人泊で前年比5.3%、2013年の述べ宿泊者数は約4億6721万人泊で前年比6.3%増と、2年連続で5%を超える高い伸びを示した(観光庁)。
そのうち外国人延べ宿泊者数は、2012年が2631万人と前年比42.9%増、2013年が3351万人で前年比27.4%と著しい伸びを見せている(数字は観光庁)。
出張ビジネスマンや受験生がとばっちり
東京オリンピック・パラリンピック開催年の2020年に年間2000万人、2030年には3000万人という訪日外国人旅行者数の目標達成に向けて、日本は今、積極的な誘致を続けている。国内人口が減少するなかで、海外からの旅行客の増加は内需を押し上げる経済効果も期待される。
だが、以上で見たような宿泊インフラの不足は宿泊費の高騰を招き、国内居住者の生活やビジネスに混乱をもたらす可能性もある。
すでに春節前のこの1月に、国内のホテルパニックを危惧する情報が飛び交っていた。
「今年の春節にはもすごい数の中国人旅行者が日本にやってきそうだ。都心はおろか、水戸や宇都宮のホテルも抑えられた」
打撃を受けたのが都内のビジネスマンである。「北海道の出張が決まったが、宿がなかなか取れない」「春節の影響なのか、週末の神戸はビジネスホテルが満室で宿探しに苦労した」などの悲鳴が上がった。
地方から都心に出張する人も、今後は注意が必要だ。人気のビジネスホテルともなれば、週末には価格が倍になるところもある。平日8000円の客室が週末には1万6000円にまで跳ね上がってしまう。受験シーズンは、地方から上京してくる受験生も大きな影響を受けそうだ。