事件は発生から10日が経過。数十カ所にわたって男性に切りつけるなど強い殺意がみられる一方、留置場での様子を知る関係者は「中学生が旅館に泊まっているような雰囲気」と証言。動機には不可解な点も多い。(宇都木渉、河野光汰)
◆突然の怒声
土曜夜の惨劇は、車内に響き渡った「この野郎!」という怒声から始まった。
9日午後9時45分ごろ、東海道新幹線新横浜−小田原間を走行中の東京発新大阪行きのぞみ265号の12号車内で乗客の男女3人が刃物で襲われ、会社員の梅田耕太郎さん(38)=兵庫県尼崎市=が死亡。隣席の女性(26)と通路を挟んで座っていた女性(27)も頭部や左肩を切りつけられた。
車内の防犯カメラの映像を分析している県警などによると、新横浜駅からの発車数分後、小島容疑者は突然怒声を上げて立ち上がり、鉈(なた)で右隣席の女性を襲撃。後方席に座っていた梅田さんが小島容疑者の腕をつかんで止めようとしたが転倒。その間に通路を挟んで左隣の女性を襲ったという。
起き上がった梅田さんが再び止めようとしたが、小島容疑者は鉈を一振り。首を切られた梅田さんに、馬乗りになって鉈を振り下ろし続けた。緊急停止した小田原駅で警察官が殺人未遂容疑で小島容疑者を現行犯逮捕。逮捕直前、小島容疑者は梅田さんをまたぐような状態で固まっていたという。
◆計画性明らか
梅田さんは胸の周辺数十カ所を切りつけられていた。傷同士が重なり合い、正確な数を算出するのが困難な状態だったといい、ある捜査関係者は「ここまでひどく切られた遺体は見たことがない」と絶句した。
県警の調べに対して小島容疑者は「誰でもよかった」「事件を起こそうと新幹線に乗った」などと無差別殺人をほのめかす供述を繰り返している一方、事件の計画性は明らかだ。
小島容疑者は犯行に使った鉈と果物ナイフについて「事件を起こそうと3月ごろに購入した」と説明。小島容疑者は事件の約半年前に家出した後、長野県内に滞在。捜査関係者によると、長野に滞在していた理由について「修学旅行で行ったこともあり、好きだった」と話しており、滞在中は公園を拠点に自転車で同県内を放浪していたという。
9日午前ごろ、小島容疑者は同県から電車で東京駅まで移動。午後8時ごろに指定席券を購入し、「事件を起こそうと思った」と、バッグに刃物を忍ばせて新幹線に乗車した。
◆反省の弁なし
小島容疑者は犯行理由を「社会に不満があり、人を殺す願望が昔からあった」と供述している一方、新幹線で犯行に及んだ理由について「特にない」としているほか、反省の弁なども述べていないとされる。
また、小田原署の留置場内での小島容疑者の様子を知るという関係者が産経新聞の取材に応じ、小島容疑者について証言した。
関係者によると、小島容疑者は独居房に収容された。留置場では番号で呼ばれるが、小島容疑者は「116」だったという。
関係者は「中学生が修学旅行で旅館に泊まりにきているような雰囲気だった。警察官にも笑みを浮かべ、反省しているようには見えなかった」と証言。また、「10日夜に出された夕食のカレーを『いただきまーす』と声に出して平らげ、3食とも5〜10分で食べ終えていたそうだ」とも話した。小島容疑者は警察官に対して「畳の上で寝るの、久しぶりなんですよ」などとも述べていたといい、午後7時ごろには床についていたという。
小島容疑者は親族にたびたび自殺願望を口にしていたというが、関係者は「矛盾を感じる。留置場のなかでは生きる喜びを感じているようだった」と話した。
県警は今後、小島容疑者の責任能力の有無を含め、女性2人に対する殺人未遂容疑での立件も視野に、動機の解明に努める方針。
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【用語解説】新幹線車内の防犯カメラ
平成27年に県内を走行中のJR東海道新幹線の車内で男が焼身自殺し、女性客を巻き込んで死亡させる事件が発生したのを契機に、JR各社は新幹線車内への防犯カメラの設置を進めてきた。今回の3人殺傷事件では、犠牲になった梅田耕太郎さんが小島一朗容疑者ともみ合いになり、殺害されるまでの詳細な状況が、カメラの映像から明らかになっている。