2019年08月31日

NHKが〈TVer〉進出で陥る、受信料の「どうしようもない矛盾」 取ったり、取らなかったり…

「TVer参加」報道が茶番である理由

8月26日、NHKがTVerで一部の番組の配信をスタートした。

26日14時に並んだのは「ダーウィンが来た!」「みいつけた」(2本)「チコちゃんに叱られる!チコっとだけスペシャル」「ハートネットTV」(2本)「バリバラ」。大河ドラマや朝ドラはなく、子供向け番組と福祉番組、自然番組に、人気のチコちゃんのショートバージョン。「本気のラインナップ」ではないということは、誰しも感じるだろう。

大した話ではないが、8月2日、なぜかこれを共同通信が正式発表前にスクープ調で報じた。「NHK、TVerへ参加 今月にも8番組程度で」。いかにも「いま判明した驚きの事実!」といった体でニュースが配信された。そして、大した話ではないのに、世の中はなぜか騒然とした。

それは「なに?NHKはTVerでも受信料を取るのか?」「NHKの料金徴収に民放が加担するのか?」と身構える人がいたからだ。

何しろいま、N国こと「NHKから国民を守る党」がNHKへの警戒感を煽ることに大成功している。N国が毎週のように話題を振りまくことで、NHKに対するネガティブな風が吹き荒れているのだ。

NHKもよせばいいのに「受信料と公共放送についてご理解いただくために」という文書を配信してミニ番組まで放送し、自ら火に油をそそぐ始末だ。N国の手の内に乗ってしまっている。

そんな中でスクープ風に「NHK、TVerへ参加」と記事を出せば、炎がさらに燃え盛る。しかも、この記事にはなぜか「無料配信」がまったく書かれていなかった。共同通信はこの「スクープと言えないスクープ」が、あらぬ誤解をもたらすことがわからなかったのだろうか。

誤解が誤解を生んだ挙句「NHKがTVerでの配信を決めたのは、N国の攻撃に対し民放に味方になってもらうためだ」というトンデモ記事まで出てくる始末(「史上最低大河「いだてん」に狙いを定めるN国にNHKは真っ青」日刊ゲンダイDIGITAL、8月21日)。

NHKは3月、すでに「放送を巡る諸課題に関する検討会」の場で、TVerでの番組配信を表明している。だから日刊ゲンダイの記事は完全な勘違い、まったくの誤報と言える。

ことほど左様にNHKのネット配信についてはいま、誤解の素、炎上の発生源になっている。変な伝え方をするマスコミも、誤解して炎上する様子もはたから見ていて苦笑いするしかない。

ところで共同通信のスクープ(?)は、全国の地方紙が配信して記事にしたのでかなりの波及効果を持った。見ていて少々、過剰反応に思える。

この「NHKに対する新聞の過剰反応」は、ここ数年「放送を巡る諸課題に関する検討会」の周辺を取材してきて、ずっと感じていた不可思議な現象だった。だんだんわかってきたのだが、新聞社はNHKが本能的に嫌いなのだ。だから私は、新聞社がNHKについて書いた記事は、そのまま受けとめずに裏を読むようにしている。

これからNHKが陥る「混乱」

とはいえこの先、NHKはネットでの活動について、さらに厳しく姿勢を問われるだろう。

TVerでの番組配信は、すでにNHKオンデマンド(NOD)との間での整合性がちぐはぐになっている。

例えば、「ダーウィンが来た」はNODでも人気の番組のひとつだ。実際、これまでの「ダーウィンが来た」はNODで有料配信されている。しかし、なぜ「クジラの新伝説」に限ってTVerで無料で見られるのだろうか。この回だけNODでも無料になっているが、それなら問題ないと言えるのか。

そもそも、本放送については「受信料を払え」と言っているのに、なぜTVerでは受信料を確認しないのか。今後の同時配信は、本放送で受信料を払っていないと見られないようにするそうだが、なぜTVerではその確認がないのか。同じネット上の無料配信で、受信料を取ったり取らなかったりと矛盾が生じてしまうのだ。

さらに来年の3月までには同時配信を始める方針とされているが、同時配信がスタートしたらTVerはどうなるのか。同時配信は一週間の見逃し配信とセットで行うと言われている。本体では受信料を払った人だけ同時配信+見逃し配信が視聴できて、TVerは一部の番組とはいえ誰でも見られる、というのはどうなのか。

同時配信+見逃し配信が始まったらNODはどうするのか。NODは一週間だけ無料にするのか。一週間は無料でその前のものは有料だとすれば、それはどんな理屈なのか。

また、高校野球は同時配信するのか。夏の甲子園は朝日放送がかなり早い段階から苦労してネット同時配信を進め、今ではスポンサーもつくようになった。それなのにNHKが同時配信に進出したら、完全に「民業圧迫」になる。春の選抜甲子園も毎日放送が同時配信を多くの人に届けるようになったが、NHKの出現で視聴数が減りかねない。それらにどう整合性をつけるのか。

ネットの「公共メディア」は成り立つのか

NHKはこれから、ますます説明が困難な状況に追い込まれる。TVerでの無料見逃し配信とNHKオンデマンドの有料配信、受信料を払ってないとスクランブルがかかる同時配信(+一週間の見逃し配信)との間で、どこかに矛盾が出てきかねないのだ。

これではN国に格好の攻撃材料を与えてしまい、NHKに何かあれば文句を言いたい一部のネット民が、ここぞとばかりに叩いてくるだろう。

結局、NHKを「公共放送」であるとする制度は、放送においてしか成り立たないのではないか。ネットも含めて、テレビ放送だけのメディアから脱却して「公共メディア」だと言い張ると、「公共性」のほころびがあちこちに生じてしまう。そのことをNHKはきちんと自覚すべきだ。

この矛盾から脱却するには、「公共メディア」を定義し直さねばならない。それだけでなく、国民の間で新しい公共メディアのあり方を共有してもらわねばならない。

そのためには、NHKが自ら議論を起こしていくしかないのだ。N国の挑発に乗って「公共放送のご説明」なんか放送するのではなく、「私たちの今後のあり方を、みなさんとご一緒に考えたいのです」と真摯に呼びかけるのだ。

NHKがいまやるべきは、これに尽きると私は考える。いつまでも本質に切り込むことを怠っていると、「公共メディア」構想なんて幻に終わってしまうのではないだろうか。

現代ビジネス
posted by РМН at 21:00| Comment(0) | 某掲示板より転載3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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