2019年12月31日

ただの田舎暮らしではない! 月4万円「全国住み放題」サービスが獲得したい“共感”とは

 減っていく人口と増え続ける空き家――。今、日本全国で深刻化している問題の解決を目指す仕組みとして、「ADDress(アドレス)」というサービスが注目を浴びている。月額4万円で「全国住み放題」という多拠点コリビングサービスだ。

 ADDressは2019年4月にテスト運用を開始。10月末には正式にサービスを開始し、新規会員の募集を始めた。ANAホールディングスなど、移動サービスの事業者とも連携し、今までにない形の定額制サービスを構築しようとしている。

 テクノロジーの発達によって、私たちの働き方や暮らしの捉え方は大きく変化している。仕事や移動の概念を変えるテクノロジーの活用が核となる、この定額制サービスで、どのように顧客との関係を築き、“共感”を得ようとしているのか。サービスを運営するアドレス(東京都千代田区)社長の佐別当隆志氏は「『都市にも暮らすし、地方にも暮らす』というライフスタイルを広めたい」と話す。

●月4万円、全国約40カ所の“家”を共同利用

 まず、ADDressとはどのようなサービスなのか。

 ADDressには、19年末時点で全国約40カ所の“家”が登録されている。空き家や別荘などを借り上げ、リノベーションなどをして管理している物件だ。アドレスの所有物件もある。会員はそれらの家を共同利用できる。利用料金は月4万円(税別、年契約)。本人確認や反社チェックなどの審査も実施して、賃貸借契約を適用する。

 会員になると、専用サイトで部屋の予約ができる。1回の予約につき、7日間まで連続滞在が可能。利用者の平均滞在期間は3日間で、週末などを利用した滞在が多いという。全国各地に共同利用できる“家”があるイメージだ。

 この仕組みだけを見ると、「気軽に移住体験をしたい人のために建物を用意する」サービスのように見える。しかし、ADDressで取り込みたい“真のニーズ”はそこにはない。

 キーワードは「コミュニティー」だ。

●地域の潜在的な魅力を掘り起こしたい

 佐別当氏がADDressのサービスを立ち上げたきっかけは、4年前に「シェアリングエコノミー協会」設立に関わったことだった。同協会の活動で、シェアリングサービスをまちづくりに生かす海外事例を紹介したり、担当する省庁や機関などの取り組みに協力したりする中で、シェアリングサービスの活用に関心を持つ地域が多いことが分かったという。

 そういった地域に足を運んでみると、人口減少が進み、空き家問題が深刻化している現状があった。そこで、空き家をシェアリングサービスに活用できれば、都市から地方へ人が移動する機会が増える、と考えた。その先には、他のサービスを含めたシェアリングエコノミーの普及につながり、まちづくりに生かせるようになるかもしれない、という期待もある。

 「日本にはさまざまな魅力にあふれた地域があり、資産の塊だと思う。その良さを伝えるために、テクノロジーを活用して地域のポテンシャルを拡大できないか、と考えた。定額制であれば、有名な観光地ではない土地にも行く機会ができる。人が集まるきっかけになる」(佐別当氏)

 現在、働き方改革の推進によって、旅先でリモートワークをする「ワーケーション」が注目されている。また、ITを利用してさまざまな公共交通をシームレスに結ぶ「MaaS(Mobility as a Service)」という概念も登場した。人々の生活における「働き方」や「移動」に関する考え方が転換点を迎えている。

 そういった背景から、ADDressのメインターゲットは、「都会に疲れた」「田舎暮らしがしたい」という層ではない。「最先端のライフスタイルを実践したい」という人たちだ。

 そのような“世界観”を伝えるために、SNSや公式サイトによる発信の方法にも工夫を加えた。「全国住み放題」という特徴をうたうだけでなく、「いつもの場所が、いくつもある、という生き方。」といったキャッチコピーを使い、“生き方”そのものに対する価値観を新しくしていこう、と呼び掛けている。

 そして、そういったメッセージの発信に欠かせないのが「家守(やもり)」と呼ばれる人たちの存在だ。

●「あの人にまた会いたい」が地域の魅力になる

 家守とは、各物件を管理する担当者のこと。とはいっても、ハード面の管理をするだけではない。利用者と地域をつなぐキーパーソンの役割を担う。

 「若い世代は、遠い地域の情報もネットで手に入るし、観光ツアーにもあまり興味がない。だからADDressでは、他とはちょっと違う、自分だけの体験ができることを重視している」と佐別当氏は話す。

 ただ滞在するだけではなく、地域の人たちと交流したり、イベントに参加したりする機会がなければ、その地域の本当の魅力は伝わらない。交流のきっかけや地域ならではの情報をもたらしてくれるのが家守なのだ。

 家守については、多種多様な人材を採用している。家守自身が「その地域の魅力」になることを目指しているからだ。原則1拠点に1人の家守がいるが、年齢は20〜82歳と幅広く、経歴なども多様だ。物件のオーナーの関係者や「地域おこし協力隊」などに声を掛けて家守のなり手を探しているが、「住み込みで家守をやりたい」という応募も200人ほど来ているという。

 「ハードだけでなく、ソフトを重要視している。地域の魅力は『人』の存在による部分が大きいと考えるからだ。『あの人にまた会いたい』という気持ちがあれば、リピートしてもらえるのでは」と佐別当氏は強調する。全国各地に小さなコミュニティーを形成するイメージで、人が集まる地域をつくっていく。

 近年、幅広い分野で定額制のサービスが増えている。商品を定期的に送ったり、サービスを使い放題にしたりするだけのサービスとADDressが最も違う部分は、利用者との密な関係づくりだ。「利用者との関係を構築すれば、データを活用して、個人に適した提案をすることもできる。関係を積み上げていくことが重要」(佐別当氏)

●3年で会員1万人、2000拠点を目指す

 現在までに、正式登録前のエントリーを含めて約5000人が登録。会員数は、数百人(1カ月限定の先行会員を含む)だという。3年後の2022年までに、会員数を1万人、物件数を2000拠点に増やす目標を掲げている。

 すでにADDressの会員としてサービスを利用している人は20〜40代が7割を占めるが、60〜70代の人たちもいるという。また、当初は「東京から地方へ」というニーズを想定していたが、現時点では、東京の会員は5割にとどまっている。地方に住んでいる人のニーズもあることが分かった。

 会員の中には、これまで借りていた物件を解約し、「家を持たない」暮らしをする人も出てきたという。ADDressの各物件には、予約制で利用できる部屋の他に、「専用ドミトリ」という部屋があり、そこに設置している固定ベッドを“自分の家”として借りることができる。住民票登録も可能だ。専用ドミトリを拠点に、倉庫サービスなどを活用して、各地を転々とする人もいるという。

 また、徳島県では、都市と地方の2つの公立学校を行き来し、両方で教育を受けることができる「デュアルスクール」という制度の実証実験が進んでいる。このような制度を活用できるようになれば、子どもと一緒に多拠点生活を体験することも可能になる。

 1アカウントで月5万円〜の「法人会員」の需要も広がっている。不動産関連の企業や福利厚生を手厚くしたい企業だけでなく、オフィスを持たない企業、さらには、各地で訪問医療サービスを手掛けるクリニックなども利用しているという。「IT、クリエイターだけではない。医療、農業、小売り、教育など、地方で必要とされるサービスを提供する企業の利用が見込める」(佐別当氏)

 一方、現状の課題は交通費がかさんでしまうこと。その負担を軽減するために進めているのが、公共交通機関などのモビリティー関連企業との連携による「移動を含めた定額制サービス」の構築だ。

●移動を前提としたライフスタイルへ

 ANAホールディングスとは20年1月下旬から実証実験を開始。ADDressの利用料金に月額2万〜3万円を加えることで、全国の指定路線・便を4回(または2往復)利用できるサービスを展開する。平日の昼間など、空席が多い便の有効活用にもつながるという。

 中古車買い取り・販売店「ガリバー」を運営するIDOMの定額制カーシェアサービス「NOREL(ノレル)」とも連携。ADDressの指定物件の駐車場に車両を設置し、各物件とガリバーの店舗で乗り捨てできるサービスを20年1月から始める。

 また、JR東日本スタートアップとも事業連携する。まずは、JR東日本グループのホテルを利用できるようにする連携から開始。鉄道による移動サービスを組み込むことも検討している。

 会員や拠点数を増やし、サービスを拡大していくために、今後はまだ拠点がないエリアにも進出していく方針だ。サービス開始当初は、東京の会員が頻繁に通える関東の物件を増やしたが「もっと全国へ行きたい」という声が多いことから、エリア拡大を急ぐ。そのために、地方自治体や地場企業との連携も強化したいという。地元に精通している企業や金融機関の協力を得て、物件やオーナー探し、家守の育成などに注力する。

 「移住・定住ではなく、“移動を前提とした”働き方やライフスタイルが生まれている」と佐別当氏は話す。暮らしや仕事に対する価値観の変化が始まっている今、ADDressへの共感を増やすことが地域や日本社会の問題を解決する足掛かりとなるかもしれない。





posted by РМН at 19:00| Comment(0) | 某掲示板より転載3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


人気ブログランキングへ