オンラインで実施した「非正規労働者 生活・賃金実態調査2026」には、約2週間の調査期間で328件の回答が寄せられた。調査結果からは、物価高が続くなかで賃上げが行われない、あるいは不十分な中で、多くの労働者が生存に不可欠な支出を切り詰めざるを得ない状況に追い込まれている実態が明らかとなった。
回答者の実に90.1%が、食費や光熱費、医療費などを削っていると回答している。特に、非正規雇用では状況が深刻だ。 以下は、自由記述欄に寄せられた回答の一部である。
「病院に行かずに薬を購入して医療費を削っています」(契約社員、医療・福祉、1001〜1200円、兵庫県、50代、女性)
「食費をよく削ります。1日2食にしたり量を減らしたりします。」(派遣社員、製造業、1201〜1400円、15万円以上20万円未満、埼玉県、40代、男性)
「米が特に高騰しているため、主食をパンや麺類に置き換えることが増えた。子どもの服は安い店で購入し、一部親族からおさがりとして譲り受けている。」(派遣社員、卸売業・小売業、1201〜1400円、兵庫県、40代、女性)
「食べ盛りの子供が3人居て、生活困窮しているので自分は2〜3日食べず、子供達と嫁に回す事がある。」(契約社員、運輸業・郵便業、20万円以上25万円未満、愛知県、40代、男性)
これらの声からは、最低限の生活すら維持することが困難な状況に置かれていることが読み取れる。最低賃金水準で働く多くの非正規労働者にとって、物価高のなかで賃金が上がらないことは、実質的な「賃下げ」であり、生存を脅かしている。
さらに、物価高に対して、残業や副業など労働時間を増やすことで対応しているという回答も多く寄せられているという。
「夜勤専従でもう10年勤続していますが、賃金が低いので明けの日に副業をして補填していますが、無理が祟って脳卒中で倒れた、一命を取り留めましたが家族を養う為にもすぐに復帰して変わらずに働き続けています。会社の利益にはかなり貢献しているはずなのでせめて夏冬にまとまった寸志でも支給してもらいたいと訴えましたが全く相手にされずに生活を人質に搾取され続けている。」(契約社員、医療・福祉、1201〜1400円、20万円以上25万円未満、奈良県、40代、男性)
「臨時職員の勤務は時給で週4日なので、他の場所でアルバイトを週0〜2日で行い生活費を補填している。幸いにも体は丈夫なので医療費などの出費はほぼないが、今の状態で病気など働けない状態になれば全て破綻してしまう。」(臨時職員、教育・学習支援業、1401〜1600円、15万円以上20万円未満、東京都、20代、回答しない)
「食料品はなるべく安価な品物を選択して購入しているが、明らかに出費が増えました。外食は減り、以前より食事の質が落ちたように感じます。休日にスキマバイトをして生活費を捻出。」(派遣社員、製造業、1401〜1600円、25万円以上30万円未満、兵庫県、50代、男性)
「学生だが、仕送り等は少ないので、空いている時間をほぼ全てアルバイトに充てている。寝る時間も削って働かないと追いつかない。」(パート・アルバイト、卸売業・小売業、1201〜1400円、東京都、20代、女性)
確かに、賃金が上がらなければ、更に働くしかない。だが、睡眠や休息をとるべき時間までも労働に充ててしまえば、慢性的な過労状態に陥り、いつ健康を損なってもおかしくない。
今回の調査結果は、物価高に対する個人的な対処にはすでに限界があることを示している。こうした状況を踏まえ、非正規春闘実行委員会は、今こそ大幅な賃上げの要求と、その実現が不可欠であると訴えている。
海外で盛り上がるインフレ下での賃上げ要求運動
インフレによる実質賃金の低下と生活苦の深刻化は、日本に限った問題ではない。世界各地で同様の状況が広がるなか、海外の労働運動では賃上げ要求が大きな広がりを見せている。アメリカでは、2022年にインフレによる生活苦を背景に、労働組合が賃上げを掲げて運動を展開した結果、現場労働者から広範な支持を集め、アメリカのAmazonで初めて労働組合が結成された。
さらに2025年末には、アメリカに加え、欧州やアジアの労働組合が賃上げを求めて相次いでストライキに突入した。Amazonだけでなく、アメリカのスターバックスでも賃上げを求めるストライキが行われ、全米85都市・120店舗以上で約2,500人の組合員が参加した。
また近年では、ごみ収集労働者や行政職員、看護師など、社会を支えるエッセンシャルワーカーによる賃上げ要求も活発化している。2026年1月には、ニューヨーク市内の複数の病院で働く約1万5,000人の看護師がストライキに突入した。年間数百万ドル(日本円で数億円規模)を稼ぐ病院経営陣に対し、現場の労働者たちは「私たちは命を支えるエッセンシャルワーカーだ」と訴え、賃上げや人員増加を求めている。
物価が高騰する一方で賃上げが行われなければ、生活はさらに困窮していく。こうしたなか、海外では「賃上げ」が労働運動の最重要課題として前面に押し出され、賃上げ運動に加わる労働者が増えているのだ。
おわりに
今回の調査から明らかになったように、インフレが最低賃金水準で働く非正規労働者に与えている影響は極めて深刻だ。だが、海外ほどのリアクションはまだ乏しい。特に、正社員の賃上げが叫ばれる一方で、非正規雇用は置き去りにされている。
日本でも、労働者が賃上げを要求し、実際に賃上げを実現していく社会的必要性は明白だろう。その際に重要となるのが、海外では当たり前に行われている、ストライキを辞さない賃上げ要求である。非正規春闘の過去の事例でも、ストライキを行い、全従業員の賃上げを勝ち取ったこともある。
職場に労働組合がなくても、賃上げ要求の根拠を持ち、ユニオンを通じて団体交渉を行えば、非正規労働者にも賃上げを実現する道はある。今春、勤務先でまだ賃上げが行われていない人や、現在の賃金水準に納得がいかない人は、まずは冒頭で紹介した「非正規春闘・賃上げ相談ホットライン」や、各地のユニオン(個人加盟労組)に相談してみてほしい。


