仕事や家庭、恋愛でうまくいかない、経済的に困っている、または社会的に孤立している。
こういった男性について取材したライターのトイアンナさん(37)は「弱者男性1500万人時代」(扶桑社新書)を刊行した。
19日は、男性ならではの悩みや葛藤、心身の健康、ジェンダー平等などを考える「国際男性デー」。トイアンナさんは「まずは弱者男性の存在を知ってほしい」と話す。
――「弱者男性」とはどういった人のことでしょうか。
◆出自や育った環境など、さまざまな事情を抱えているのに、同情を得にくく、自業自得と思われやすい。あるいは、存在を認識してもらえない、透明化されてしまっている人たちのことを指します。
――SNS(ネット交流サービス)では、「弱者男性」という言葉がよく使われています。
◆「モテない男」をたたくための単語として引用されることが多いですね。
女性の真意を読み取れない男性に対して、「これだから弱者男性は」「キモい」などと攻撃する。差別は許されないはずなのに、石を投げても許される、唯一の人間だと思われているのではないでしょうか。
――著書では、容姿にハンディキャップがある、引きこもり経験がある、家族に多重債務者がいるなどの16項目を示し、弱者男性を定義しています。
◆取材を受けてくれた男性らから強い要望を受け、定義付けしました。飲み会でネタのように「俺、弱者男性だから彼女いなくて」と言うような人と自分たちの置かれた環境は違うんだ、という思いですね。
取材やアンケートの回答に基づき、「弱者男性」に該当する項目をリストアップしました。一つではなく、複数の項目に該当する人が多いです。
――著書で「弱者男性」は日本で最大1500万人にのぼる、と推計しています。
◆経済政策などを研究する小樽商科大の池田真介教授にお願いして、推計してもらいました。取材などで得た20〜64歳の男性1000人のアンケート結果、行政データなどから、日本の生産年齢人口(15〜64歳)の男性3760万5000人のうち、16項目のいずれかに当てはまる弱者男性は1100万〜1500万人にのぼる見通しになりました。
――今春の著書刊行後、どんな反響がありましたか。
◆弱者男性の定義付けについて、反論や批判は少なく、「より自分に絶望した」「自分がいかに追い詰められているかを数字で淡々と示された」といった当事者の声が寄せられました。
また、彼らを救う方法があまりない、との指摘もありました。国は、社会的孤立対策の一環として、属性や世代を問わない相談支援事業などを実施していますが、あまり知られていません。社会で、男性は「耐えろ」と言われ続けているので、支援を受けるという選択を取りにくいのが実情です。
公的な支援制度がある。頼っていい。この二つを弱者男性に届けるため、防災ブックのように自治体が一般家庭に冊子を配布することなどを提案しています。
――トイアンナさんが社会に伝えたいこととは何でしょうか。
◆弱者男性が「いるよ」っていうことですね。いることが信じられていないので。
飲食店で非正規従業員として働く人を見ていますか。引きこもりから脱してコンビニでバイトを始めた人を見ていますか。日ごろから身の回りにいて、今、戦っている人たちがいる、ということを知ってほしいです。
そして彼らについて、石を投げていい相手だと思っていませんか。しんどい女性がいる、しんどい男性がいる。どちらがより大事ではない。性別に関係なく、しんどい人を助けることができる社会になるべきだ、と思います。